妹を溺愛する兄が先に結婚しました
結咲(ゆさ)、乗ってく?」


赤いセダンの車に乗った兄が、運転席の窓から笑顔を覗かせる。


「乗らない」


問答無用で拒否し歩く私の横をノロノロと走る兄の車。


「早く行ったら?遅れるよ」


「行く先は同じなんだし、乗りな」


優しく、でもなんとなく高圧的で。

引くことを知らない、強引さ。


爽やかな笑顔で誘われて断る女性が、果たしているのだろうか。


いる、ここに。


「やだよ。乗らない」


「結咲も朝練に遅れるよ」


「…………」


決して、兄の誘惑に負けたのではない。

朝練に遅れてはいけない、という使命感を持っただけ。


立ち止まって。

兄の言う通りになるなんて嫌だな、と思いながら車に乗り込んだ。


回り込んで助手席に乗った私を満足そうに見た兄は、車を走らせた。



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