妹を溺愛する兄が先に結婚しました
***



雨が降って、真崎家で夜ご飯をいただいたその日の帰り道。


真崎先生に送ってもらうのはありがたいけど、その車内は会話も音楽もない静かな空間。


普段は沈黙が気にならない俺も、今日この時に限っては空気を破りたい気分になった。



雨のせいで車窓の外は歪み、ネオンだけが景色を描く。


視線は外を向いたまま、ふと呟く。


「折部って覚えてますか……?」


小声でも先生の耳に届いたようで、

「折部?誰それ」と聞き返された。


「真崎の……、手紙の」


「……あー、思い出した。けど、なんで時原が知ってるんだ?」


“手紙”という単語だけでわかったようだった。


「真崎に聞きました」


「あっそ」


興味なさげに先生が言葉を漏らしたきり、また会話が途切れた。


というより、先生は俺の言葉を待っているようで。

俺は言うか言わないか迷って口を噤んだので、静かになった。



< 369 / 447 >

この作品をシェア

pagetop