妹を溺愛する兄が先に結婚しました
「もう、やだ……っ」


すべてを忘れたくて、職場の先輩が紹介してくれたバーのカウンターで、1人で飲んでいた。


ふと口から漏れた弱気。

それを呑み込むために、ギムレットを口に流し込もうとした時だった。



「飲み過ぎ」


後ろから伸びてきた手にグラスを取られた。


トロンとした目を向けると、そこにいたのは容貌の優れた長身の男性。


見覚えがあるけど、お酒のせいかすぐに思い出せない。


男性は、ギムレットを私から遠ざけながら横に座った。

その際、ふわっと香水らしき匂いが鼻を刺激した。


「ったく……。お前、そんな酒強くねぇだろ」


呆れるように言った彼の口調は、かなり私を知っている様子。


……だけど、ごめんなさい。

「あの……、どちら様でしたっけ?」


「真崎 桜太」


真崎 桜太──名前を聞いてすぐ思い出した。


同じ大学だった人だ。学部もサークルもゼミも違ってほぼ関わりはなかったけど、共通の友達を通じて何度か一緒に飲んだことがある。


「久しぶりだね。こんなところで、どうしたの?」


「さっきまで飲んでたんだよ」


チラッと後ろを見た桜太くん。


そういえば、さっきまで後ろのテーブル席で男女グループが飲んでいたっけ。

そっか。だから、香水の匂いがしたのか。


< 404 / 447 >

この作品をシェア

pagetop