妹を溺愛する兄が先に結婚しました
桜太くんの顔がこちらに向いたのを視界の端で捉え、誘われるように目を合わせた。


まっすぐな桜太くんの瞳に吸い込まれそう……。



「じゃあ、俺と結婚する?」



あまりに今の状況に不相応な言葉が、私の耳に届く。


お酒のせいか、見惚れていたせいか……理解するのに時間がかかった。


「……え?」


「俺と結婚すれば、その婚約者と結婚しなくて済むだろ。俺となら──」


「え、ちょっと待って……、結婚って……本気?」


急に頭が冴えて、聞き間違いじゃないかと確認する。


だって……、結婚だよ?

そんなサラッと提案するようなものじゃないよね。



だけど、桜太くんは至って本気だった。


「本気。……俺となら仕事を続けられるし、うちに来れば旭の家も出られるだろ」


「……え、でも、結婚だよ……?桜太くんにだって、理想の1つや2つ……あるでしょ?」


「ないよ。もし俺が本気で結婚したいと思うなら、相手は妹以外あり得ないから」


あ……、思い出した。

そうだ。桜太くんってシスコンなんだっけ。それも重度の。


大学時代に流れていた、イケメン桜太くんの1つの噂──彼女よりも妹を優先させる。

そのせいで付き合って別れてを繰り返していた。



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