妹を溺愛する兄が先に結婚しました
***



外は雨が降っているのか、ピチャピチャと雨の跳ねる音がする。


雨の日は、思い出す。

和奏が父と喧嘩して、家にやって来た時のこと。


『俺、もうあんな家に居たくねぇ!』


兄弟の中でも比較的温厚な和奏が珍しく声を荒げた。


高校生のうちは自由にしていい、と言っていた父から婚約者を紹介されたらしい。


……刺すような痛みが胸に走った。


婚約者との結婚を断って、桜太くんと結婚した私のせいで父が厳しくなった。


……私のせいだ。

私が父に逆らったから。


『和奏のわがままを聞いてくれませんか?』

和奏を守るために口から出た自分勝手な言葉は、また桜太くんを困らせた。


翌日。桜太くんと旭の家に向かう車の中で、私は『ごめん』と呟いた。


『何が?』


『私のせいで、和奏に迷惑をかけて……結局、桜太くんにも』


声が震える。隣でハンドルを握る桜太くんの方を見れなかった。


俯く私。

……降ってきたのは、優しさだった。


『俺には迷惑かけろって言ったろ。偽りだとしても、夫婦なんだから』


夫婦。その言葉に私は泣きたくなる。



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