妹を溺愛する兄が先に結婚しました
「優しくしないでください。私、これ以上、桜太くんのこと……」


ゆかなは、下唇を噛んで言葉を呑み込む。


……そこまで言われて察しない俺ではない。

聞かない選択肢もあったけど……。


「ちゃんと言えよ」


はっきり言ってくれた方がいい。


「……これ以上、桜太くんのこと、好きになりたくない。桜太くんの……迷惑になりたくない」


俺から受け取ったハンカチで涙を拭きながら、彼女はそう言った。



「好かれることを迷惑だなんて思わないよ。同じだけ返せないってだけで」


「じゃあ……好きでいてもいいの?……桜太くんの結咲ちゃんへの想いを邪魔したりしないから」


たぶん、ゆかなは俺との約束に縛られている。


結婚の条件──結咲を優先するって。


確かに邪魔されるのは嫌だけど、気持ち自体を否定することはしない。

……だから勝手に好きでいればいい。



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