ここではないどこか
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昼休み。
食堂にある購買で焼きそばとコロッケパンを買って、まだうだうだと悩みながら昼食を選んでいる智宏と斎藤を待っていた。他の生徒の邪魔にならないように、食堂を出た右側にある自動販売機の奥のベンチのそのまた奥にあるトタン屋根の支柱に寄りかかった。
あいつらほんと悩み出すと長いんだよな……。4時限目の授業が早く終わったから、せっかく人が少なくて、種類も豊富なうちに購買に来れたのに。その種類の豊富さが仇となり、いつもより長い時間悩んでいるようだった。まばらだった生徒も気がつけばいつもと同じぐらいに増えていた。
そろそろだろうと、支柱から背中を離し食堂の出入り口に足を向けたその時、「黒岩くん」と呼ばれた声がして、その声が聞こえた右側に顔を向けた。
「はい?」
知らない人にもとびっきりの笑顔を返してしまうのは、もう職業病と言っても差し支えない気がする。反射的ににこりとしてしまうのだ。顔を赤らめた女子生徒は言いにくそうにもじもじとし、スカートをぎゅっと握った。あ、これはまずいやつだ。気づかれない程に細く息を吐きふと視線を上げると、ニヤニヤとこちらを見ている智宏と斎藤が目に入った。
そもそも2人が遅いからこんなことに……忌々しげな表情は表に出さず、先程からスカートを握りしめ続けている彼女に「どうしたんですか?」と問いかけながら、女子生徒の合服の胸ポケットに施されている校章の刺繍糸の色を確認した。
緑だから俺と同じ学年か……見たことないな。そこまで大きな高校でもないと思うが、中学に比べると生徒数は3倍程増えており、把握していない生徒の方が当たり前に多かった。
「あの、これ、連絡先です。よかったらお友達になってください」
連絡先が書かれているであろう紙をずいと半ば無理矢理に渡すだけ渡した彼女は、ぺこりと頭を下げて踵を返し、急いで走って行ってしまった。
手とスカートの間で握りつぶされてクシャクシャになってしまったその紙を見て口元が緩む。俺はうぶで不器用そうな子をかわいいと思う俗な男なのだ。
「見ちゃいましたぁ」
「相変わらずモテますねぇ」
先程の子の姿が見えなくなったと同時に、待ってましたと言わんばかりの声が届いた。「おっそいわ」それには反応せずに文句を言うと、2人は「お待たせ」と申し訳なさそうに俺へコーラを差し出した。どうやらお詫びの品らしい。
「おー、さんきゅ」
遠慮なく受け取れるのは気心の知れた2人からだからだ。
「で、どうすんの?」
珍しく智宏が話を進めた。恋や猥談の話を積極的に進めるのは斎藤と決まっているからだ。
「やぁ、友達になってくださいだからなぁ……どうすりゃいいの?」
付き合ってください、なら断っていた。俺は姉さん以外を好きになれるとは思っていないし、それに来年にはデビューを控えている。バタバタと忙しくなるこの時期に余計なことは持ち込みたくなかった。……余計なことってのは酷いか。
しかし友達と言われれば、断ることは酷く残酷な気がした。友達になりたいって言って断られた経験なんてあるか?顎にかけた親指と人差し指をゆっくりと動かした。
「友達っていってもあれは確実にその先を望んでるだろ」
「だな」
斎藤にしては至極真っ当な意見だと思った。俺の斎藤に対する評価は割と地を這っているのだ。
「じゃあ、断るかなぁ……悪いけど、考えられない」
「もったいねぇ。俺ならとりあえず有り難くいただくね」
地を這う原因はそういうところだぞ、と思った。
昼休み。
食堂にある購買で焼きそばとコロッケパンを買って、まだうだうだと悩みながら昼食を選んでいる智宏と斎藤を待っていた。他の生徒の邪魔にならないように、食堂を出た右側にある自動販売機の奥のベンチのそのまた奥にあるトタン屋根の支柱に寄りかかった。
あいつらほんと悩み出すと長いんだよな……。4時限目の授業が早く終わったから、せっかく人が少なくて、種類も豊富なうちに購買に来れたのに。その種類の豊富さが仇となり、いつもより長い時間悩んでいるようだった。まばらだった生徒も気がつけばいつもと同じぐらいに増えていた。
そろそろだろうと、支柱から背中を離し食堂の出入り口に足を向けたその時、「黒岩くん」と呼ばれた声がして、その声が聞こえた右側に顔を向けた。
「はい?」
知らない人にもとびっきりの笑顔を返してしまうのは、もう職業病と言っても差し支えない気がする。反射的ににこりとしてしまうのだ。顔を赤らめた女子生徒は言いにくそうにもじもじとし、スカートをぎゅっと握った。あ、これはまずいやつだ。気づかれない程に細く息を吐きふと視線を上げると、ニヤニヤとこちらを見ている智宏と斎藤が目に入った。
そもそも2人が遅いからこんなことに……忌々しげな表情は表に出さず、先程からスカートを握りしめ続けている彼女に「どうしたんですか?」と問いかけながら、女子生徒の合服の胸ポケットに施されている校章の刺繍糸の色を確認した。
緑だから俺と同じ学年か……見たことないな。そこまで大きな高校でもないと思うが、中学に比べると生徒数は3倍程増えており、把握していない生徒の方が当たり前に多かった。
「あの、これ、連絡先です。よかったらお友達になってください」
連絡先が書かれているであろう紙をずいと半ば無理矢理に渡すだけ渡した彼女は、ぺこりと頭を下げて踵を返し、急いで走って行ってしまった。
手とスカートの間で握りつぶされてクシャクシャになってしまったその紙を見て口元が緩む。俺はうぶで不器用そうな子をかわいいと思う俗な男なのだ。
「見ちゃいましたぁ」
「相変わらずモテますねぇ」
先程の子の姿が見えなくなったと同時に、待ってましたと言わんばかりの声が届いた。「おっそいわ」それには反応せずに文句を言うと、2人は「お待たせ」と申し訳なさそうに俺へコーラを差し出した。どうやらお詫びの品らしい。
「おー、さんきゅ」
遠慮なく受け取れるのは気心の知れた2人からだからだ。
「で、どうすんの?」
珍しく智宏が話を進めた。恋や猥談の話を積極的に進めるのは斎藤と決まっているからだ。
「やぁ、友達になってくださいだからなぁ……どうすりゃいいの?」
付き合ってください、なら断っていた。俺は姉さん以外を好きになれるとは思っていないし、それに来年にはデビューを控えている。バタバタと忙しくなるこの時期に余計なことは持ち込みたくなかった。……余計なことってのは酷いか。
しかし友達と言われれば、断ることは酷く残酷な気がした。友達になりたいって言って断られた経験なんてあるか?顎にかけた親指と人差し指をゆっくりと動かした。
「友達っていってもあれは確実にその先を望んでるだろ」
「だな」
斎藤にしては至極真っ当な意見だと思った。俺の斎藤に対する評価は割と地を這っているのだ。
「じゃあ、断るかなぁ……悪いけど、考えられない」
「もったいねぇ。俺ならとりあえず有り難くいただくね」
地を這う原因はそういうところだぞ、と思った。