ここではないどこか
5
「姉さん」
愛おしい人を呼ぶ声は弱々しく掠れていて、それが自分の自信のなさをより一層際立たせた。
「とおる」
姉さんの黒々とした目がだめだよ、と言っている。だけど俺の名前を呼ぶ声は愛おしげにまろみを帯び、それだけで涙が出てしまいそうなほどに切なげであった。
もしかすると姉さんも俺と同じ気持ちかもしれない。いや、そんなことあるわけないだろう?2つの感情が忙しなく押し寄せせめぎ合う。
あと少しだ。それを言ってしまえばあとは堕ちるだけだ。
「彼女なんていないよ。ただ連絡先を渡されただけ」
「そう……」
返事をした姉さんは視線をそらし、ほっとため息を吐く。
「だって、俺が好きなのは……」
その先は姉さんの口内へと溶けて消えた。背伸びをしていた踵を下ろした姉さんを強く抱きしめた。握っていたピンクの紙が音も立てずに廊下に落ちる。
「すきだ。ずっとずっと好きだった」
やっと言えたその言葉に姉さんは消えそうな声で「わたしも」と応えた。
地獄ではなかった。ここは地獄などではなかった。どこを選びとっても地獄だと思っていた姉さんとの関係は、唯一の楽園に成った。
▼
触れた肌はしっとりと吸い付き、俺を惑わせる。お互いの気持ちを確認してからは、今まで抑圧されていた欲望が一気に目覚め、もっともっとと貪欲にお互いを求めた。
一線を越えてしまえば、今まで何を不安に思い、何に遠慮していたのかさえわからなくなった。
仕方ない。だってどうしようもなく好きなんだから。それを大義名分とし「すきだ、すきだ」と熱に浮かされたように繰り返した。
「姉さん、すきだよ」
「さっきから何度も聞いてるよ」
姉さんがくすくすと口元に手をあてて優しく笑う。
「今まで我慢してきた分がまだたんまり残ってる」
「わかる。私にもまだたんまり残ってる」
「じゃあ、もっとちょうだい」
セミダブルのベッドで布団に潜り、足を絡めながらじゃれつく。子供が親に隠れていたずらをするときと同じ、見つからないように小さな声で。
耳元で囁く愛の言葉はこんなにも甘美だったのか。ずぶずぶと堕ちていく。絡み合った足が這い上がる気を根こそぎ奪っていく。
「すきよ」
「俺も。あいしてる」
そう告げれば、姉さんはぴたりと動きを止め「それはずるいよ」と泣いた。その涙に口づけを落とす。
「すごいね。姉さんは涙まで甘い」
「……もう……」
呆れたように笑った姉さん。信じてないな。本当なんだよ。本当に全部甘いんだよ。
愛おしい人を呼ぶ声は弱々しく掠れていて、それが自分の自信のなさをより一層際立たせた。
「とおる」
姉さんの黒々とした目がだめだよ、と言っている。だけど俺の名前を呼ぶ声は愛おしげにまろみを帯び、それだけで涙が出てしまいそうなほどに切なげであった。
もしかすると姉さんも俺と同じ気持ちかもしれない。いや、そんなことあるわけないだろう?2つの感情が忙しなく押し寄せせめぎ合う。
あと少しだ。それを言ってしまえばあとは堕ちるだけだ。
「彼女なんていないよ。ただ連絡先を渡されただけ」
「そう……」
返事をした姉さんは視線をそらし、ほっとため息を吐く。
「だって、俺が好きなのは……」
その先は姉さんの口内へと溶けて消えた。背伸びをしていた踵を下ろした姉さんを強く抱きしめた。握っていたピンクの紙が音も立てずに廊下に落ちる。
「すきだ。ずっとずっと好きだった」
やっと言えたその言葉に姉さんは消えそうな声で「わたしも」と応えた。
地獄ではなかった。ここは地獄などではなかった。どこを選びとっても地獄だと思っていた姉さんとの関係は、唯一の楽園に成った。
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触れた肌はしっとりと吸い付き、俺を惑わせる。お互いの気持ちを確認してからは、今まで抑圧されていた欲望が一気に目覚め、もっともっとと貪欲にお互いを求めた。
一線を越えてしまえば、今まで何を不安に思い、何に遠慮していたのかさえわからなくなった。
仕方ない。だってどうしようもなく好きなんだから。それを大義名分とし「すきだ、すきだ」と熱に浮かされたように繰り返した。
「姉さん、すきだよ」
「さっきから何度も聞いてるよ」
姉さんがくすくすと口元に手をあてて優しく笑う。
「今まで我慢してきた分がまだたんまり残ってる」
「わかる。私にもまだたんまり残ってる」
「じゃあ、もっとちょうだい」
セミダブルのベッドで布団に潜り、足を絡めながらじゃれつく。子供が親に隠れていたずらをするときと同じ、見つからないように小さな声で。
耳元で囁く愛の言葉はこんなにも甘美だったのか。ずぶずぶと堕ちていく。絡み合った足が這い上がる気を根こそぎ奪っていく。
「すきよ」
「俺も。あいしてる」
そう告げれば、姉さんはぴたりと動きを止め「それはずるいよ」と泣いた。その涙に口づけを落とす。
「すごいね。姉さんは涙まで甘い」
「……もう……」
呆れたように笑った姉さん。信じてないな。本当なんだよ。本当に全部甘いんだよ。