ここではないどこか
▼
「料理は私が作ります!」
「香澄さん料理苦手って言ってたじゃん!俺が作ります!」
「ここに住み出して2ヶ月、毎晩作ってきたのでマシになりました!それに私には信頼安心のレシピアプリがあるので!」
仁さんと私の余りに不毛な争いに智宏くんは苦笑いし、瑞樹くんは呆れきっていた。透も興味無さそうにふい、と視線を逸らす。
「じゃあ、2人で作ってよ」
埒があかないと瑞樹くんが助け舟を出してくれた。「よし、そうしよう!」と仁さんが私をキッチンに招き入れる。私たちの部屋と間取りが同じ仁さんの部屋はキッチンの向きまで同じだった。
「なに作る?とりあえずあいつらにはフライドポテト揚げて食わせとくか」
そう言いながら手際よく冷凍ポテトを十分に熱した油の中に放り込んでいった。
「食材はなにがあるの?」
「割となんでも揃ってるよ」
野菜室とチルドを開けた仁さんの後ろから中を覗くと本当に食材が揃っていた。
「すごい、ほんとに揃ってますね。普段から自炊してるんですねぇ」
感嘆の声を出せば、「さすがに普段はここまで揃えてないよ」と仁さんが照れたように笑った。ん?とわからない表情を向ければ「実は、デビューステージを終えたらあいつらを誘って祝勝会をしようってこと、決めてたんです」とさらに笑みを深くした。
え、かわいい……一人でメンバーのことを考えながら食材を買い込む仁さんを想像して心ときめいた。
「香澄さんのことももちろん最初から誘うつもりでしたよ」
いたずらっ子のように笑った彼の表情は普段の物腰柔らかな姿とは違い、ぐんと幼い少年の雰囲気を纏っていた。
▼
テキパキと調理をしていく仁さんを見ながら、これは私いらなかったやつだな……と肩身が狭くなった。そんな私に気づいたのか適度に仕事を振ってくれる仁さんに対する評価がまたぐんっと上がる。
出来上がったものからテーブルに並べていくと、ジャレついていた3人が「うまそー」と声を揃えた。
「ぜーんぶ仁さん作です」
「そんなことないよ。香澄さんと俺作です!」
一つ年下の彼は私よりも随分と大人だった。
「仁さんと私作です」
言い直して3人に笑いかければ無邪気な笑顔と「いただきます」が返ってきた。「うまっ」という幸せな声と顔を見届けてから再びキッチンへ戻ると、仁さんが私にお酒の缶を差し出した。
「香澄さんって飲めます?」
「飲めます……けど……」
そう言って受け取ったお酒は女性が好んで飲みそうな、甘味が強くアルコール度数の低いものだった。
「あいつらは未成年だからさ、俺に付き合ってよ」
この笑顔だ。私は仁さんに初めて会った日を鮮明に思い出した。彼の手に握られていたのはビールで、恐らくこのカクテルは私のために選んでくれただろうことがわかって、なんだかこそばゆくなった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
グラスに移し替えてくれたお酒は柔らかなピンク色をしていた。「きれいな色……」私が思わず呟くと、「俺ピンク色大好きなんだよね」と仁さんが柔らかく微笑む。
「幸せそうな色でしょ。柔らかくて可憐で、優しい色。香澄さんみたいだね」
それはどういう意味なんだろ……他意を含まなさそうな仁さんの笑顔に戸惑う。頬に集まる熱を誤魔化すように曖昧に微笑み返し、「いただきます」と仁さんとグラスを合わせた。
「料理は私が作ります!」
「香澄さん料理苦手って言ってたじゃん!俺が作ります!」
「ここに住み出して2ヶ月、毎晩作ってきたのでマシになりました!それに私には信頼安心のレシピアプリがあるので!」
仁さんと私の余りに不毛な争いに智宏くんは苦笑いし、瑞樹くんは呆れきっていた。透も興味無さそうにふい、と視線を逸らす。
「じゃあ、2人で作ってよ」
埒があかないと瑞樹くんが助け舟を出してくれた。「よし、そうしよう!」と仁さんが私をキッチンに招き入れる。私たちの部屋と間取りが同じ仁さんの部屋はキッチンの向きまで同じだった。
「なに作る?とりあえずあいつらにはフライドポテト揚げて食わせとくか」
そう言いながら手際よく冷凍ポテトを十分に熱した油の中に放り込んでいった。
「食材はなにがあるの?」
「割となんでも揃ってるよ」
野菜室とチルドを開けた仁さんの後ろから中を覗くと本当に食材が揃っていた。
「すごい、ほんとに揃ってますね。普段から自炊してるんですねぇ」
感嘆の声を出せば、「さすがに普段はここまで揃えてないよ」と仁さんが照れたように笑った。ん?とわからない表情を向ければ「実は、デビューステージを終えたらあいつらを誘って祝勝会をしようってこと、決めてたんです」とさらに笑みを深くした。
え、かわいい……一人でメンバーのことを考えながら食材を買い込む仁さんを想像して心ときめいた。
「香澄さんのことももちろん最初から誘うつもりでしたよ」
いたずらっ子のように笑った彼の表情は普段の物腰柔らかな姿とは違い、ぐんと幼い少年の雰囲気を纏っていた。
▼
テキパキと調理をしていく仁さんを見ながら、これは私いらなかったやつだな……と肩身が狭くなった。そんな私に気づいたのか適度に仕事を振ってくれる仁さんに対する評価がまたぐんっと上がる。
出来上がったものからテーブルに並べていくと、ジャレついていた3人が「うまそー」と声を揃えた。
「ぜーんぶ仁さん作です」
「そんなことないよ。香澄さんと俺作です!」
一つ年下の彼は私よりも随分と大人だった。
「仁さんと私作です」
言い直して3人に笑いかければ無邪気な笑顔と「いただきます」が返ってきた。「うまっ」という幸せな声と顔を見届けてから再びキッチンへ戻ると、仁さんが私にお酒の缶を差し出した。
「香澄さんって飲めます?」
「飲めます……けど……」
そう言って受け取ったお酒は女性が好んで飲みそうな、甘味が強くアルコール度数の低いものだった。
「あいつらは未成年だからさ、俺に付き合ってよ」
この笑顔だ。私は仁さんに初めて会った日を鮮明に思い出した。彼の手に握られていたのはビールで、恐らくこのカクテルは私のために選んでくれただろうことがわかって、なんだかこそばゆくなった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
グラスに移し替えてくれたお酒は柔らかなピンク色をしていた。「きれいな色……」私が思わず呟くと、「俺ピンク色大好きなんだよね」と仁さんが柔らかく微笑む。
「幸せそうな色でしょ。柔らかくて可憐で、優しい色。香澄さんみたいだね」
それはどういう意味なんだろ……他意を含まなさそうな仁さんの笑顔に戸惑う。頬に集まる熱を誤魔化すように曖昧に微笑み返し、「いただきます」と仁さんとグラスを合わせた。