ここではないどこか

8

 告白なの?あれって……。でもあんな怒ったような投げやりな告白ってある?私は今朝の瑞樹くんを思い出し、なんだかおかしくなって吹き出した。

「なに?なんかあったの?」

 思い出し笑いをした私に透は問いかける。透は瑞樹くんの気持ちを知っているのだろうか?そもそもいつから好きでいてくれたのだろう?あの待ち伏せが始まったときから?
 だけど、好きだと思っている人と接する時の独特な熱っぽさは感じなかったけれど。それなら仁くんの方がよっぽど……。祝勝会の日を思い出す。
 瑞樹くんって分かり易そうと思ってたけど、そうでもないのかな。てか、好きって言われたわけじゃないよね。え……好きじゃないの!?わかんなーいー!!!

「姉さん?」

 一向に返事をする気配がない私を透が呼んだ。

「さっきからコロコロ表情変えて……なにかあった?」

 あった。確実に何かはあった。だけどこれは透には言えない。私たちの間に横たわる陰鬱な空気を吹き飛ばすように笑顔を作る。

「仕事で良いことがあっただけ!」

 この世に絶対変わらないものなんてあるのだろうか。
 
「そう。それはよかったね」

 透は無理矢理に微笑んだ。

 透、苦しいのなら手放していいんだよ。私を捨て置いてどこかに行ってもいいんだよ。

 それは私自身に言い聞かせていたのかもしれない。離れた方がいいとわかっているのに決定的な言葉を言わずに透に委ねている私は、ずるい。
 
 つらい。くるしい。離してしまえば解放される。
 
 だけど、私を好きでいてほしい。
 その笑顔も泣き顔も、怒った顔も、独占欲も、透の全ての感情を、死ぬその時まで、私だけに向けていてほしい。
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