ここではないどこか
Chapter3
1
どうやらカバンの中身が見えたらしい。後輩の峯田さんが嬉しそうに目を輝かせた。
「黒岩さんもミドリちゃんなんですか?」
「え、みどりちゃん?」
「違いました?blendsのライブグッズ持ってたからてっきりファンなのかなー?って思ったんですけど」
グッズ……思い当たるのはつい先日会ったときに瑞樹くんに渡されたティッシュケースだった。
「あぁ、これ……これは人にもらったやつで」
「そうなんですね……ミドリちゃんだったらメンバーの話たくさんできると思ったんですよぉ!」
峯田さんは残念そうな顔をしてメイク直しの続きを始めた。
「そのみどりちゃんて誰なの?」
「誰っていうか、blendsのファンの呼称です!知りません?3番目にリリースした"green"っていうヒット曲!」
「ごめん……私疎くてわからない」
「いえいえ。まぁ、その曲名とメンバーの名前に色が入ってること、あとはグループ名の"融合する"ってことと合わさって、ミドリちゃんになったんです!」
嬉々として語る峯田さんの圧に押されて、タジタジになりながら私は「へぇ」とだけ辛うじて返した。
あの日、透と決別をしてから3年と少し、私はblendsに関すること、正確には透を遠ざけていた。
「ちょっと、布教してもいいですか?」
私の返事も聞かず、峯田さんはスマホを取り出しカメラロールにずらりと並んだ写真を真剣に吟味し出した。
「これ、この方が私の推しの浅黄智宏くんです」
そこに映っていたのは懐かしい笑顔の智宏くんだった。ほっと胸を撫で下ろし、「へぇ。かわいいね。どんなとこが好きなの?」とブラシにパウダーを含ませながら聞いた。
「ちょっと、一言では表せられないんですけど……!」
「長くなってもいいよ」
微笑ましいと思った。好きな人を語る女の子のなんと可愛いことか。
「まず、まずはこのふにゃふにゃの笑顔です。元々優しい顔をしてるんですけど、笑うと目がなくなってさらに優しい顔になるんですよー。ほんとに浄化されます!」
「うんうん。次は?」
心の中で、わかるよ、と相槌を打ちながら続きを促す。
「こんなにふにゃふにゃなのに、ダンスがパワフルでセクシーなんです。メンバーの中で一番華があるダンスをしますね。所謂ギャップ萌えってやつです!ギャップといえば、作詞作曲もしてて才能が爆発してるんですよー。そんな才能に溢れてるのに、バラエティではあざとさも見せてくるんです!え、なんなの?天使なの?私の心を殺しにきてるの?つまり、お母さん産んでくれてありがとうってことなんです!」
捲し立てるように智宏くんの魅力を話した峯田さんは息を整えながら、「まだまだありますけど……」と得意げに笑った。
「充分に伝わりました」
「そうですか?じゃあ、次にメンバー紹介を……」
言いながら峯田さんはスワイプをした。
「この人がリーダーの仁くんです。彼はどこかの国の王子です。で、次にこの子が最年少の瑞樹くん。彼は言う事なしの器用イケメンです。そして最後が……」
「待って、もう休憩終わっちゃうからいかないと」
私の静止に「あと一人ですよー?」と悔しそうに峯田さんはスマホを休憩バッグにしまった。
エレベーターを待っている間、こそこそと峯田さんが話しだす。エレベーターを待つスペースは狭く、他の人との距離が近い為、それは彼女の配慮だった。
「あと一人は透くんっていって、儚げな美少年です。この子が黒岩さんと同じ苗字なんですよ!職場で黒岩さんにお会いしたときドキドキしちゃいましたー!」
あははと自虐気味に笑う峯田さんを見ながら私は曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
「黒岩さんもミドリちゃんなんですか?」
「え、みどりちゃん?」
「違いました?blendsのライブグッズ持ってたからてっきりファンなのかなー?って思ったんですけど」
グッズ……思い当たるのはつい先日会ったときに瑞樹くんに渡されたティッシュケースだった。
「あぁ、これ……これは人にもらったやつで」
「そうなんですね……ミドリちゃんだったらメンバーの話たくさんできると思ったんですよぉ!」
峯田さんは残念そうな顔をしてメイク直しの続きを始めた。
「そのみどりちゃんて誰なの?」
「誰っていうか、blendsのファンの呼称です!知りません?3番目にリリースした"green"っていうヒット曲!」
「ごめん……私疎くてわからない」
「いえいえ。まぁ、その曲名とメンバーの名前に色が入ってること、あとはグループ名の"融合する"ってことと合わさって、ミドリちゃんになったんです!」
嬉々として語る峯田さんの圧に押されて、タジタジになりながら私は「へぇ」とだけ辛うじて返した。
あの日、透と決別をしてから3年と少し、私はblendsに関すること、正確には透を遠ざけていた。
「ちょっと、布教してもいいですか?」
私の返事も聞かず、峯田さんはスマホを取り出しカメラロールにずらりと並んだ写真を真剣に吟味し出した。
「これ、この方が私の推しの浅黄智宏くんです」
そこに映っていたのは懐かしい笑顔の智宏くんだった。ほっと胸を撫で下ろし、「へぇ。かわいいね。どんなとこが好きなの?」とブラシにパウダーを含ませながら聞いた。
「ちょっと、一言では表せられないんですけど……!」
「長くなってもいいよ」
微笑ましいと思った。好きな人を語る女の子のなんと可愛いことか。
「まず、まずはこのふにゃふにゃの笑顔です。元々優しい顔をしてるんですけど、笑うと目がなくなってさらに優しい顔になるんですよー。ほんとに浄化されます!」
「うんうん。次は?」
心の中で、わかるよ、と相槌を打ちながら続きを促す。
「こんなにふにゃふにゃなのに、ダンスがパワフルでセクシーなんです。メンバーの中で一番華があるダンスをしますね。所謂ギャップ萌えってやつです!ギャップといえば、作詞作曲もしてて才能が爆発してるんですよー。そんな才能に溢れてるのに、バラエティではあざとさも見せてくるんです!え、なんなの?天使なの?私の心を殺しにきてるの?つまり、お母さん産んでくれてありがとうってことなんです!」
捲し立てるように智宏くんの魅力を話した峯田さんは息を整えながら、「まだまだありますけど……」と得意げに笑った。
「充分に伝わりました」
「そうですか?じゃあ、次にメンバー紹介を……」
言いながら峯田さんはスワイプをした。
「この人がリーダーの仁くんです。彼はどこかの国の王子です。で、次にこの子が最年少の瑞樹くん。彼は言う事なしの器用イケメンです。そして最後が……」
「待って、もう休憩終わっちゃうからいかないと」
私の静止に「あと一人ですよー?」と悔しそうに峯田さんはスマホを休憩バッグにしまった。
エレベーターを待っている間、こそこそと峯田さんが話しだす。エレベーターを待つスペースは狭く、他の人との距離が近い為、それは彼女の配慮だった。
「あと一人は透くんっていって、儚げな美少年です。この子が黒岩さんと同じ苗字なんですよ!職場で黒岩さんにお会いしたときドキドキしちゃいましたー!」
あははと自虐気味に笑う峯田さんを見ながら私は曖昧な笑みを返すことしかできなかった。