ここではないどこか
▼
帰宅途中の電車の中、私は瑞樹くん宛にメッセージを作っていた。だけど何度作っても、瑞樹くんに「透に会いたいんだな」と思わせそうなメッセージしか出来上がらなかった。
実際会いたいと思っている。それは間違いではないのだ。だけど瑞樹くんにそう思われたくない。彼を傷つけたくないし、私に呆れてほしくないのだ。
私は文章で伝えることを諦めて、電話をさせてもらおうとその旨のメッセージを送った。
電話は思っていたよりも早い時間にかかってきた。
「お疲れ様。仕事終わったの?」
「うん。今家に着いたところ」
「そうなんだ。おかえりー」
「……おう。……ただいま」
少し言い淀んだ瑞樹くんを不思議に思いながら「電話ありがとね」と伝えると「大丈夫。どうしたの?」と優しい声が返ってきた。
「意見を聞きたいと思って。……12月9日にあるblendsのライブに誘われたの。行ってもいいかな?」
「え、まじで……!?そうか……うん……いいじゃん。……俺を見に来てよ」
締め付けられた胸に恋の始まりを感じる。このまま好きになれたらどれほど幸せなのだろうか。
「うん。わかった……!」
「その日って香澄さんの誕生日だよね」
「そうそう。やっと誕生日に予定ができたよ」
自虐気味に笑うと、瑞樹くんはぴたりと話すことをやめた。
「……どうしたの?」
「俺だって本当は毎年誕生日を祝いたかったんだよ。だけど俺にそういうことは求めてなかったしさ、香澄さん」
忘れた頃にひょっこりと顔を出す、拗ねた子供のような口調がたまらなく愛しいと素直に思う。
「今年は祝わせてよ」
「うん、ありがと」
「……あぁー、今すぐ会いたい……」
そうだ。瑞樹くんは駆け引きなどしないのだ。ただ真っ直ぐに伝えてくれる愛情を私は両手で受け止めたい。
そのためにはやっぱり、小さく小さく折り畳んだ、だけど確かにまだ持っている、大切にしていた想いを捨てなければいけない。
私の他のどの感情も思い出も釣り合わない。それらを捨てたところで受け取れない。
瑞樹くんからの愛情をこの手に受け止められるのは、透への想いを手放した時だけだ。
帰宅途中の電車の中、私は瑞樹くん宛にメッセージを作っていた。だけど何度作っても、瑞樹くんに「透に会いたいんだな」と思わせそうなメッセージしか出来上がらなかった。
実際会いたいと思っている。それは間違いではないのだ。だけど瑞樹くんにそう思われたくない。彼を傷つけたくないし、私に呆れてほしくないのだ。
私は文章で伝えることを諦めて、電話をさせてもらおうとその旨のメッセージを送った。
電話は思っていたよりも早い時間にかかってきた。
「お疲れ様。仕事終わったの?」
「うん。今家に着いたところ」
「そうなんだ。おかえりー」
「……おう。……ただいま」
少し言い淀んだ瑞樹くんを不思議に思いながら「電話ありがとね」と伝えると「大丈夫。どうしたの?」と優しい声が返ってきた。
「意見を聞きたいと思って。……12月9日にあるblendsのライブに誘われたの。行ってもいいかな?」
「え、まじで……!?そうか……うん……いいじゃん。……俺を見に来てよ」
締め付けられた胸に恋の始まりを感じる。このまま好きになれたらどれほど幸せなのだろうか。
「うん。わかった……!」
「その日って香澄さんの誕生日だよね」
「そうそう。やっと誕生日に予定ができたよ」
自虐気味に笑うと、瑞樹くんはぴたりと話すことをやめた。
「……どうしたの?」
「俺だって本当は毎年誕生日を祝いたかったんだよ。だけど俺にそういうことは求めてなかったしさ、香澄さん」
忘れた頃にひょっこりと顔を出す、拗ねた子供のような口調がたまらなく愛しいと素直に思う。
「今年は祝わせてよ」
「うん、ありがと」
「……あぁー、今すぐ会いたい……」
そうだ。瑞樹くんは駆け引きなどしないのだ。ただ真っ直ぐに伝えてくれる愛情を私は両手で受け止めたい。
そのためにはやっぱり、小さく小さく折り畳んだ、だけど確かにまだ持っている、大切にしていた想いを捨てなければいけない。
私の他のどの感情も思い出も釣り合わない。それらを捨てたところで受け取れない。
瑞樹くんからの愛情をこの手に受け止められるのは、透への想いを手放した時だけだ。