ここではないどこか
3
私の誕生日当日は時間が取れないかもしれないということで、3日前の今日、「お祝いをしよう」と瑞樹くんが誘ってくれた。
「本当に家でよかったの?」
いつもより少しいいワインで乾杯をしたあと、瑞樹くんに聞かれた。
本当は、外でディナーでも、ということだった。だけど人気うなぎ上りの、これからを期待されているアイドルである瑞樹くんとそうすることは、どうしても憚られた。
「こことか好きそうだと思ったんだけど」
そう言って差し出された瑞樹くんのスマホ画面を覗く。
間接照明に照らされた雰囲気のある店内と美味しそうな料理の写真が並んでいた。
「わぁ、ほんとだ。これとかめっちゃ美味しそう」
「でしょ?香澄さん絶対好きそうだと思ったんだよ」
どうやらチーズ料理のお店らしかった。お酒のアテに絶対チーズを選んだり、チーズがかかっているということだけでメニューを選ぶくらいにはチーズ好きである私の為に、探してくれたのだろうか。
ディナーを断って宅飲みを提案したことは瑞樹くんの想いを踏みにじる行為だったかもしれない。
「ごめんね……。せっかく考えてくれてたのに」
自己嫌悪に陥った私を見た瑞樹くんは「謝らないで。俺に気遣ってくれたのわかってるから」と目尻を下げた。
瑞樹くんのちょっとした表情や仕草から私への想いが痛いほどに伝わってくる。
彼がひた隠しにしていたとはいえ、私はどうして瑞樹くんの想いに気づかないで過ごせてきたのだろうか。
「せっかくのお祝いなんだし、楽しもう!」
「うん!そうだね」
「改めて、お誕生日おめでとう」
艶々とした唇がそう紡いだ。
瑞樹くんの口は下唇がぷっくりとしている。くりりとした大きな瞳がかわいい。対照的に鼻筋は印象よりも太く男性的で、女性的な瞳とのバランスが抜群に良かった。
「なに?俺の顔になんかついてる?」
暗に見過ぎだと訴えているようだ。
「ここにホクロあるんだね、知らなかった」
無意識に伸びた手が瑞樹くんの右耳の下にある小さな点に触れる。
「……あぁ、最近髪型変えたから見えるようになったのかな」
そう言いながら瑞樹くんはホクロに触れた私の手に自分の手を重ねる。途端に自分の行動を恥ずかしく感じ、咄嗟に手を引いた。瑞樹くんは逃げる私の手を引き止めようとはしなかった。
「ご、ごめん……」
「そういうとこなんですよね。無防備で思わせぶり。八方美人で優柔不断」
ぐさりぐさりと心に刃が刺さっていく。心当たりがありすぎるのがまたツライところだった。
「ひどー。主役にそこまで言うか……」
じとりと恨めしげに睨む。
「はい。それでも好きです。ぜんぶ」
好きって言えば酷い言葉も帳消しになると思っていないか?その整った顔で微笑めば私がなんでも許すと思ってないか?
……悔しいけど、その通りだよ。
「ずるい。それを言われるともうなんも言えないじゃん」
まんまと絆された私はもう許して微笑むしかないのだ。
「本当に家でよかったの?」
いつもより少しいいワインで乾杯をしたあと、瑞樹くんに聞かれた。
本当は、外でディナーでも、ということだった。だけど人気うなぎ上りの、これからを期待されているアイドルである瑞樹くんとそうすることは、どうしても憚られた。
「こことか好きそうだと思ったんだけど」
そう言って差し出された瑞樹くんのスマホ画面を覗く。
間接照明に照らされた雰囲気のある店内と美味しそうな料理の写真が並んでいた。
「わぁ、ほんとだ。これとかめっちゃ美味しそう」
「でしょ?香澄さん絶対好きそうだと思ったんだよ」
どうやらチーズ料理のお店らしかった。お酒のアテに絶対チーズを選んだり、チーズがかかっているということだけでメニューを選ぶくらいにはチーズ好きである私の為に、探してくれたのだろうか。
ディナーを断って宅飲みを提案したことは瑞樹くんの想いを踏みにじる行為だったかもしれない。
「ごめんね……。せっかく考えてくれてたのに」
自己嫌悪に陥った私を見た瑞樹くんは「謝らないで。俺に気遣ってくれたのわかってるから」と目尻を下げた。
瑞樹くんのちょっとした表情や仕草から私への想いが痛いほどに伝わってくる。
彼がひた隠しにしていたとはいえ、私はどうして瑞樹くんの想いに気づかないで過ごせてきたのだろうか。
「せっかくのお祝いなんだし、楽しもう!」
「うん!そうだね」
「改めて、お誕生日おめでとう」
艶々とした唇がそう紡いだ。
瑞樹くんの口は下唇がぷっくりとしている。くりりとした大きな瞳がかわいい。対照的に鼻筋は印象よりも太く男性的で、女性的な瞳とのバランスが抜群に良かった。
「なに?俺の顔になんかついてる?」
暗に見過ぎだと訴えているようだ。
「ここにホクロあるんだね、知らなかった」
無意識に伸びた手が瑞樹くんの右耳の下にある小さな点に触れる。
「……あぁ、最近髪型変えたから見えるようになったのかな」
そう言いながら瑞樹くんはホクロに触れた私の手に自分の手を重ねる。途端に自分の行動を恥ずかしく感じ、咄嗟に手を引いた。瑞樹くんは逃げる私の手を引き止めようとはしなかった。
「ご、ごめん……」
「そういうとこなんですよね。無防備で思わせぶり。八方美人で優柔不断」
ぐさりぐさりと心に刃が刺さっていく。心当たりがありすぎるのがまたツライところだった。
「ひどー。主役にそこまで言うか……」
じとりと恨めしげに睨む。
「はい。それでも好きです。ぜんぶ」
好きって言えば酷い言葉も帳消しになると思っていないか?その整った顔で微笑めば私がなんでも許すと思ってないか?
……悔しいけど、その通りだよ。
「ずるい。それを言われるともうなんも言えないじゃん」
まんまと絆された私はもう許して微笑むしかないのだ。