ここではないどこか
6
私はいまだにあのネックレスをどうしようもできないでいる。
私の誕生日から約1ヶ月。仕事柄正月休みなんてものはなく、やっと連休が取れたのが今日だった。
私は1日に何度も瑞樹くんからもらったネックレスを眺めていた。手に取って太陽の光にあててみたり、鏡の前で首元にあてたり、指先でつついたりと、何度も何度も眺めては手に取ってまた片付けてを繰り返していた。
暇なわけではない。ただ自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れて、後悔しているのだ。
▼▲
あの誕生日の夜、結局私は瑞樹くんの想いに応えることはできなかった。「やっぱりこれは貰えない」と言った私を見る瑞樹くんの表情は穏やかだった。
「なんでそんなに苦しい方に行くかなぁ」と次第に目を細めて泣きそうになる瑞樹くんを確かに愛しいと思うのに。
「ま、俺も一緒か……。苦しいのに好きでいることをやめられない。……このネックレスは香澄さんの好きにして」
そう言って私に手を伸ばした瑞樹くんはネックレスを軽く撫でた。微かに触れた指先が私の肌の上を滑る。
「ずっと好きでいるのも、諦めるのも苦しいね」
瑞樹くんの親指が丁寧に私の涙を拭った。
「泣きたいのは俺の方だよ。でも絶対にまた連絡しちゃうわぁ……諦めが悪くてごめんね」
私は思いっきり首を横に振った。私はそれに救われているのだ。だけど、傷ついた瑞樹くんを救うのは一体誰なんだろう?
応えられないのに、他の人には渡したくない。
困ったように笑う瑞樹くんが「好きだよ」と囁いた。
▲▼
冷静に考えて、なんであの時「うん」と言って瑞樹くんの胸に飛び込まなかったんだろう?
あの歌詞が私に宛てたラブレターだって?馬鹿馬鹿しい。
瑞樹くんからこんなに連絡がこないことは今までなかった。恒例の水曜日にもインターホンは鳴らない。メッセージアプリを開いて文字を打つけど、私から連絡できるはずもなく、ただため息をこぼすだけだ。
どっちつかずの私だけを残して時間が過ぎていく。
それでもお腹は空くもので、晩ご飯の準備をしながら食べかけのアイスを口に放り込んだ。一口で食べられる形状のアイスはこういった時に便利だ。
頼りっきりだったレシピアプリはもうほとんど見ていない。ふとした瞬間に時間の経過を感じて寂しくなる。
私はまだあの頃の透が与えてくれていた心地良い愛の中に囚われているのだ。
ふと、スマホが震えていることに気づく。もしかして瑞樹くんかもしれない、と濡れた手を服で拭ってスマホを覗き込んだ。
「おかあさん……」
思わぬ人物に驚く。電話はなにか用事があるときしかしないので、夕方が終わろうとしている時間の着信に瞬時に心当たりを探したが見当もつかなかった。
「もしもし?珍しいね。どうしたの?」
「香澄!おばあちゃんが亡くなったの!」
「えっ!?」
私の誕生日から約1ヶ月。仕事柄正月休みなんてものはなく、やっと連休が取れたのが今日だった。
私は1日に何度も瑞樹くんからもらったネックレスを眺めていた。手に取って太陽の光にあててみたり、鏡の前で首元にあてたり、指先でつついたりと、何度も何度も眺めては手に取ってまた片付けてを繰り返していた。
暇なわけではない。ただ自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れて、後悔しているのだ。
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あの誕生日の夜、結局私は瑞樹くんの想いに応えることはできなかった。「やっぱりこれは貰えない」と言った私を見る瑞樹くんの表情は穏やかだった。
「なんでそんなに苦しい方に行くかなぁ」と次第に目を細めて泣きそうになる瑞樹くんを確かに愛しいと思うのに。
「ま、俺も一緒か……。苦しいのに好きでいることをやめられない。……このネックレスは香澄さんの好きにして」
そう言って私に手を伸ばした瑞樹くんはネックレスを軽く撫でた。微かに触れた指先が私の肌の上を滑る。
「ずっと好きでいるのも、諦めるのも苦しいね」
瑞樹くんの親指が丁寧に私の涙を拭った。
「泣きたいのは俺の方だよ。でも絶対にまた連絡しちゃうわぁ……諦めが悪くてごめんね」
私は思いっきり首を横に振った。私はそれに救われているのだ。だけど、傷ついた瑞樹くんを救うのは一体誰なんだろう?
応えられないのに、他の人には渡したくない。
困ったように笑う瑞樹くんが「好きだよ」と囁いた。
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冷静に考えて、なんであの時「うん」と言って瑞樹くんの胸に飛び込まなかったんだろう?
あの歌詞が私に宛てたラブレターだって?馬鹿馬鹿しい。
瑞樹くんからこんなに連絡がこないことは今までなかった。恒例の水曜日にもインターホンは鳴らない。メッセージアプリを開いて文字を打つけど、私から連絡できるはずもなく、ただため息をこぼすだけだ。
どっちつかずの私だけを残して時間が過ぎていく。
それでもお腹は空くもので、晩ご飯の準備をしながら食べかけのアイスを口に放り込んだ。一口で食べられる形状のアイスはこういった時に便利だ。
頼りっきりだったレシピアプリはもうほとんど見ていない。ふとした瞬間に時間の経過を感じて寂しくなる。
私はまだあの頃の透が与えてくれていた心地良い愛の中に囚われているのだ。
ふと、スマホが震えていることに気づく。もしかして瑞樹くんかもしれない、と濡れた手を服で拭ってスマホを覗き込んだ。
「おかあさん……」
思わぬ人物に驚く。電話はなにか用事があるときしかしないので、夕方が終わろうとしている時間の着信に瞬時に心当たりを探したが見当もつかなかった。
「もしもし?珍しいね。どうしたの?」
「香澄!おばあちゃんが亡くなったの!」
「えっ!?」