ここではないどこか
2
なんだっけ、どっかで見たことあるぞ、というのが合コンのために訪れたダイニングバーの第一印象だった。
個室に通されて早速メニュー表を広げる。もちろん男性陣の到着がまだだからできることだ。
「黒岩さん、早速メニュー見てるんですか?」
今日の合コンに誘ってくれた後輩、峯田さんが私の行動を見てクスクスと笑った。
「だってお腹空いたんだもん」
「仕事忙しかったですしね。なんかチーズ料理のお店みたいですよ!」
峯田さんのその言葉に思い出す。
もしかして、3年前の私の誕生日に瑞樹くんが連れて来てくれようとしたお店か……!
瑞樹くんとは結局今の今まで外食をしたことがない。なのに瑞樹くんオススメのお店で合コンか……と私はチリチリと小さな痛みを伴う罪悪感を覚えた。
「あ、もうすぐ着くって」
幹事である峯田さんがスマホを確認して楽しげな声を上げた。恐らく男性陣の幹事からそのような連絡があったのだろう。
ここにきていよいよ私は緊張してきた。だって合コンなんて4年近くしていない。しかも女性陣側にも知っている人は峯田さんだけ、というなんとも心細い状況であった。
しかしそれもこれも私の性格が招いたことだ。ここは腹を括って美味しいご飯を食べることに専念しよう……!
「遅くなってすみません」
個室に入ってくるなり、幹事であろう男性は頭を下げた。確か峯田さんの大学の同級生だと言っていた。
なるほど、事前情報の通り、スポーツをしているだろうことがはっきりと分かる、がっしりとした体つきだった。そして、綺麗に切り揃えられた襟足が清潔感を醸し出していた。
「よろしくお願いします」
となんともぎこちない挨拶と共に自己紹介が始まった。
男性陣は峯田さんの友達、医療機器の営業をしているスポーツ爽やか男子、澤田さん。
澤田さんの同僚、眼鏡男子の村上さん。
澤田さんの友達、予備校講師の河島さん。
そして河島さんの友達の、消防士の清水さん、だった。
私は顔と名前を必死で覚える。フルネームで自己紹介してくれたが下の名前は遥か彼方へ消えていった。すみません……。
お酒がほどよく回った頃、席替えをしよう、と言ったのは誰だったか。私の隣には予備校講師の河島さんが座った。
自然と距離を詰めるのが上手いなぁ、と彼の軽快なトークを聞きながら思う。
「河島さんって、面白いですね。お話が上手なのかな……つい引き込まれちゃう。すごく楽しい」
私がそう素直な感想を述べると、彼は照れを隠すように「人気講師なんで、トークには自信があります」と笑った。
確か私より2歳下だと言った彼がずっと大人っぽく見える顔を、くしゃくしゃにして笑う姿は子犬のようで可愛い。
鼻に皺を入れながら笑う人が好きなんだよなぁ、私……。ふと彼を通して思い出した人物の笑顔をかき消すように、私はぐいっとワインをあおった。
「黒岩さんって、お酒強いんですか?」
「どうでしょう……強くはないかもしれないですね。でも好きです」
何か変なことを言っただろうか。きょとんとした河島さんは残っていたビールを一気に流し込むと、お尻をずらし私との距離を縮めた。
個室に通されて早速メニュー表を広げる。もちろん男性陣の到着がまだだからできることだ。
「黒岩さん、早速メニュー見てるんですか?」
今日の合コンに誘ってくれた後輩、峯田さんが私の行動を見てクスクスと笑った。
「だってお腹空いたんだもん」
「仕事忙しかったですしね。なんかチーズ料理のお店みたいですよ!」
峯田さんのその言葉に思い出す。
もしかして、3年前の私の誕生日に瑞樹くんが連れて来てくれようとしたお店か……!
瑞樹くんとは結局今の今まで外食をしたことがない。なのに瑞樹くんオススメのお店で合コンか……と私はチリチリと小さな痛みを伴う罪悪感を覚えた。
「あ、もうすぐ着くって」
幹事である峯田さんがスマホを確認して楽しげな声を上げた。恐らく男性陣の幹事からそのような連絡があったのだろう。
ここにきていよいよ私は緊張してきた。だって合コンなんて4年近くしていない。しかも女性陣側にも知っている人は峯田さんだけ、というなんとも心細い状況であった。
しかしそれもこれも私の性格が招いたことだ。ここは腹を括って美味しいご飯を食べることに専念しよう……!
「遅くなってすみません」
個室に入ってくるなり、幹事であろう男性は頭を下げた。確か峯田さんの大学の同級生だと言っていた。
なるほど、事前情報の通り、スポーツをしているだろうことがはっきりと分かる、がっしりとした体つきだった。そして、綺麗に切り揃えられた襟足が清潔感を醸し出していた。
「よろしくお願いします」
となんともぎこちない挨拶と共に自己紹介が始まった。
男性陣は峯田さんの友達、医療機器の営業をしているスポーツ爽やか男子、澤田さん。
澤田さんの同僚、眼鏡男子の村上さん。
澤田さんの友達、予備校講師の河島さん。
そして河島さんの友達の、消防士の清水さん、だった。
私は顔と名前を必死で覚える。フルネームで自己紹介してくれたが下の名前は遥か彼方へ消えていった。すみません……。
お酒がほどよく回った頃、席替えをしよう、と言ったのは誰だったか。私の隣には予備校講師の河島さんが座った。
自然と距離を詰めるのが上手いなぁ、と彼の軽快なトークを聞きながら思う。
「河島さんって、面白いですね。お話が上手なのかな……つい引き込まれちゃう。すごく楽しい」
私がそう素直な感想を述べると、彼は照れを隠すように「人気講師なんで、トークには自信があります」と笑った。
確か私より2歳下だと言った彼がずっと大人っぽく見える顔を、くしゃくしゃにして笑う姿は子犬のようで可愛い。
鼻に皺を入れながら笑う人が好きなんだよなぁ、私……。ふと彼を通して思い出した人物の笑顔をかき消すように、私はぐいっとワインをあおった。
「黒岩さんって、お酒強いんですか?」
「どうでしょう……強くはないかもしれないですね。でも好きです」
何か変なことを言っただろうか。きょとんとした河島さんは残っていたビールを一気に流し込むと、お尻をずらし私との距離を縮めた。