ここではないどこか

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 なんだっけ、どっかで見たことあるぞ、というのが合コンのために訪れたダイニングバーの第一印象だった。
 個室に通されて早速メニュー表を広げる。もちろん男性陣の到着がまだだからできることだ。

「黒岩さん、早速メニュー見てるんですか?」

 今日の合コンに誘ってくれた後輩、峯田さんが私の行動を見てクスクスと笑った。

「だってお腹空いたんだもん」
「仕事忙しかったですしね。なんかチーズ料理のお店みたいですよ!」

 峯田さんのその言葉に思い出す。
 もしかして、3年前の私の誕生日に瑞樹くんが連れて来てくれようとしたお店か……!
 瑞樹くんとは結局今の今まで外食をしたことがない。なのに瑞樹くんオススメのお店で合コンか……と私はチリチリと小さな痛みを伴う罪悪感を覚えた。
 
「あ、もうすぐ着くって」

 幹事である峯田さんがスマホを確認して楽しげな声を上げた。恐らく男性陣の幹事からそのような連絡があったのだろう。
 ここにきていよいよ私は緊張してきた。だって合コンなんて4年近くしていない。しかも女性陣側にも知っている人は峯田さんだけ、というなんとも心細い状況であった。
 しかしそれもこれも私の性格が招いたことだ。ここは腹を括って美味しいご飯を食べることに専念しよう……!

「遅くなってすみません」

 個室に入ってくるなり、幹事であろう男性は頭を下げた。確か峯田さんの大学の同級生だと言っていた。
 なるほど、事前情報の通り、スポーツをしているだろうことがはっきりと分かる、がっしりとした体つきだった。そして、綺麗に切り揃えられた襟足が清潔感を醸し出していた。

「よろしくお願いします」

 となんともぎこちない挨拶と共に自己紹介が始まった。
 男性陣は峯田さんの友達、医療機器の営業をしているスポーツ爽やか男子、澤田さん。
 澤田さんの同僚、眼鏡男子の村上さん。
 澤田さんの友達、予備校講師の河島さん。
 そして河島さんの友達の、消防士の清水さん、だった。

 私は顔と名前を必死で覚える。フルネームで自己紹介してくれたが下の名前は遥か彼方へ消えていった。すみません……。

 お酒がほどよく回った頃、席替えをしよう、と言ったのは誰だったか。私の隣には予備校講師の河島さんが座った。
 自然と距離を詰めるのが上手いなぁ、と彼の軽快なトークを聞きながら思う。

「河島さんって、面白いですね。お話が上手なのかな……つい引き込まれちゃう。すごく楽しい」

 私がそう素直な感想を述べると、彼は照れを隠すように「人気講師なんで、トークには自信があります」と笑った。
 確か私より2歳下だと言った彼がずっと大人っぽく見える顔を、くしゃくしゃにして笑う姿は子犬のようで可愛い。
 鼻に皺を入れながら笑う人が好きなんだよなぁ、私……。ふと彼を通して思い出した人物の笑顔をかき消すように、私はぐいっとワインをあおった。
 
「黒岩さんって、お酒強いんですか?」
「どうでしょう……強くはないかもしれないですね。でも好きです」

 何か変なことを言っただろうか。きょとんとした河島さんは残っていたビールを一気に流し込むと、お尻をずらし私との距離を縮めた。
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