短編集 優しくなんてないよ
「はは……バカみたい。」
私は打ち終わった文字を見つめ,苦笑した。
明るく笑おうとしたけれど,薄暗い部屋に湿っぽい声のみ広がる。
「こんなことしても,彼には届かないのに…」
そっと,唇を噛む。
「滑稽,だ。」
そう言った途端,私の頬に暖かいものが流れ落ちる。
「やだ……」
頑張るって決めたのに。
君に誇れる私になるって言ったのに。
私はやっぱり弱いまま。
君に貰った勇気はどこに行ったんだろう?
無理やり止めようとしても止まらない。
「う,うぅ……」
それどころか,止め留めも無く溢れる。
思いも涙も声も…何もかも止まらない。
苦しい。苦しい。くるしい。クルシイ。
「会いたいなぁ……」
君に,会いたい。
君に会えるなら世界だって捨てられるよ。
正義とかヒーローとか神様だって止められないくらい,君への好きが止まらない。
君がいなくなってからの方がもっと,ずっと大好きだよ。
きっと,今日より明日,明日より明後日の方が君への愛が高まる。
私は君以外好きになれない呪いにかかったのかもしれない。
それもこれも全部,君のせいだよ。
それなのに君は,俺以外の人を好きになれって言うのでしょう?
呪いを,魔法をかけたのは君なのに。
責任くらいとってよ,バカ。
勝手に死ぬなよ,バーカ。
でもさ,どーしても私に未来へ歩いて欲しいなら。
ちゃんと,歩き出すよ。
死にたいなんてもう言わない。
消えたいなんてもう言わない。
途中で立ち止まったり,亀より遅い歩みになるかもしれないけれど。
それでももう,立ち止まったりはしないよ。
人を,愛してみようと思う。
未来を,夢見てみようと思う。
君に“生きてて良かった!”って,心から言えるようにするよ。
あの時,救ってくれてありがとうって言うよ。
それで長い長い土産話をたーーっぷり聞かせてあげる。
たくさんたくさん頑張るよ。
だから。
だから,この命が尽きたその時は。
笑顔で抱きしめて欲しい。
愛してるって言って欲しい。
頑張ったねって褒めて欲しい。
嫌いになったなんて言わせないから!!
逆に惚れさせてやる!
死んだこと後悔させてやる!
だから……その時まで私を見守っててね。
ずっとずっとずーーーっと!
「あなたの事を愛してる。」
私は深い群青に囲まれて,そう口にした。
まだ胸は痛むし,苦しいけど。
どこかスッキリした優しい気持ちに包まれた。
久しぶりの部屋に光が入る感覚に少し微笑むと案外私の笑顔も捨てたもんじゃないなと自分自身で思った。
そこでピンポーンと軽快なリズムをインターホンが奏でる。
あぁ,ほら。
私にはもう友達もいるんだよ。
それもこれも君のおかげだ。
私の周りは想像以上に暖かかった。
それに気づかせてくれてありがとう。
私はもう一度群青に微笑むと,外へ繋がる扉へと1歩踏み出した。