バリキャリ課長の年上彼女は、一途な彼に翻弄される
部署に戻り、押印を済ませた私は、悪夢を見ているようで、少し呆然としていた。
「緑川さん、緑川さん?」
景山くんの声で我に返った。
「あっ、ごめん、何?」
「何もないですけど、緑川さんがぼーっとすることなんてあるんですね」
話したいけど、いくらあなたでも引くわよ。
それこそ何を言われることやら・・・

足取りが重いけど、もう一度応接室へ向かった。
「こちら押印しましたので、ご確認ください。では失礼します」
私は引きつった笑顔で彼と吉本さんに挨拶をし、退室しようとした時
「あっ、緑川さん、待って!こちらの赤星さんが緑川さんに教えて欲しいことがあるようで、お願いできるかな?僕は今から外出しなければならなくてね。では、赤星さん、これで失礼します」
私を残して、吉本さんは部屋を出て行った。
どうしよう・・・

「お忙しいのにすみません。引き留めまして」
「いえ、大丈夫です。赤星さん、ですね。まさかここでお会いするとは思いませんでした」
「御社には何度か来ていまして。人事課長さんだったんですね」
「先輩が退職をすることになって、部長の次が私だったことと、女性活躍のこともあってですけど」
「それだけでは任せないですよ。課長にふさわしい方だからだと思いますよ」
「そんな風に言っていただけて光栄です。ところで、ご質問はどのようなことでしょう?」
「いえ、ただ緑川さんとお話したかっただけです。あの、これ僕の名刺です」
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