絶体絶命の聖女候補、幼女薬師になってもふもふと聖騎士団をお助けします!
 執務室に到着したカスペルはイライラが治まらず、乱暴にドアを開け放つ。行きよいよく閉まったドアがバタンと大きな音を立てた。

 ここのところ、いつもこの調子だ。
 次代の聖女を選ぶ聖女光臨の儀を行ったのは数カ月前のこと。
 各地から推薦された五名の聖女候補の中から選ばれたのは、ルイーナ=バシュタ。バシュタ侯爵家の十九歳になる令嬢だった。

 聖女はこの国になくてはならない存在だ。強力な神聖力の結界により、アリスベン王国に平穏をもたらす聖なる存在。

 結界の強度は聖女の心理状態に大きく左右され、それ故聖女は大切に扱われる。
 その聖女がここ最近不機嫌で、結界の綻びも多数見つかっているという。そのため、国王であるカスペル自らが時折ああして聖女の機嫌取りをしていたのだ。はっきり言って、反吐が出そうだ。
 今後その役目はヴィラムに移行するが、手がかかる聖女であることに変わりはない。
 

 そのとき、執務室のドアをノックする音が聞こえた。

「誰だ?」
「父上、私です。ヴィラムです」

 息子であるヴィラムの声がする。
 ちょうど聖女の相手役をヴィラムに託そうとしていたカスペルは、いいところに来たとヴィラムを執務室に招き入れた。

「ちょうどよいところに来た。お前に役目を与える」
「私に役目、ですか?」

 ヴィラムは訝しげな表情でカスペルを見返してきた。

「そうだ。聖女による神聖力の結界が我が国にとって非常に大切なものであることはお前も知っているな?」
「もちろんです」
「その聖女が最近、不機嫌になって各地の結界に緩みが生じている。お前が機嫌を取ってこい」

 ヴィラムは俄に眉根を寄せたが、特に反論することもなく「わかりました」と頭を下げた。

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