絶体絶命の聖女候補、幼女薬師になってもふもふと聖騎士団をお助けします!
 カスペルは自身の息子であり、王太子でもあるヴィラムを見やる。
 さらりとした金髪に青い瞳。整った見目は自身に似ているが、性格は温厚で気が弱く、頼りない。つまり、自分とは全く似ていない。

「父上。イラリオから書簡が届いたのです」
「イラリオから?」

 イラリオはカスペルの年の離れた弟で、前国王である父と側妃との間に生まれた王子だった。
 ただ、このイラリオという男はカスペルにとっては少々目障りな存在だった。
 ずっとアリスベン唯一の王子として育ったカスペルにとって、急に現れた王位争いの相手。さらに、イラリオは何かと優秀だった。文武共に教えられたことはぐんぐんと吸収し、自分のものにする。土と火の精霊の加護を得て魔法を使うこともでき、周囲からの信頼も厚かった。

 イラリオが成長するにつれ、貴族の一部から『次期国王にはイラリオ殿下が相応しいのでは?』という声が上がり始める。
 そのため、カスペルはイラリオのためと称し、本当は自分のためにイラリオを遠い僻地に追いやった。

 セローナの聖騎士団の団長という職は、第二王子であったイラリオにとって屈辱的な内容だっただろう。けれど、その表情に敗北の色を見せなかったところがまた気に入らない。

 つまり、カスペルからするとイラリオは全てが気に入らない目の上のたんこぶのような存在だ。息子である王太子のヴィラムが未だにイラリオと親しくしていることも理解しがたい。
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