絶体絶命の聖女候補、幼女薬師になってもふもふと聖騎士団をお助けします!
 カスペル陛下はあまり有能な国王とは言いがたい。息子であるヴィラム殿下が優秀なことを周囲に悟られれば、一部の貴族はヴィラム殿下への代替わりを主張し出す。カスペル陛下がそれに同意する可能性はないので、国内の政治分断を引き起こす可能性がある。
 さらに、辺境の地に追放されるような形になったとはいえ、俺が今日まで無事に暮らして行けているのもヴィラム殿下が愚かで頼りない王子を演じていたからこそだ。

 普通に考えれば、年が近い王位継承権の継承者同士である俺達はライバルだ。
 それを、愚かでそんなことには全く気が付かないような振りをして俺と親しくし、俺に不利な状況が発生するたびにさりげなく助け船を出していた。

「アメイリの森の調査は明日から行います」
「ええ、お願いします。私も行こうと思います」
「聖女様はどうされますか?」
「難色を示していますが、立場上初日だけは来てほしいと伝えました。また、一日最低二回の礼拝は欠かさずにしてもらうよう伝えてあります。残りの時間は観光をしたいそうです。彼女に、町案内の者を付けてもらっても?」
「わかりました」

(わざわざセローナ地区までやって来たのに、やることが観光なのか……?)

 色々と言いたいことはあったが、申し訳なさそうに眉尻を下げるヴィラム殿下の様子を見て口に出すのは止めた。聖女の機嫌を損ねることは結界の緩みに繋がるから、どうにもしがたい状況なのだろう。
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