お姉さん、泣いて
だから問いかけてみたんだが。
女の人は凛とした空気を崩し、どや顔で大きめのバッグからピンク色の折りたたみ傘を取り出した。
「私はこれがあるから大丈夫。遠慮しないで使ってね。あっ、タオルもあるけど使う?濡れたままじゃ風邪を引いちゃうかも」
そう言って見るからに手触りのいいタオルを差し出されて、まさに至れり尽くせりの状態。
……なんでこの人はこんなに他人に尽くすことができるんだ。
相手は高校生でなんかしらの見返りを求めようにも大したものは返ってこないってことはわかるだろ?
ってか、貸すにしても普通は折りたたみ傘の方を差し出すだろ?
男である俺のことを考えてのことだろうけど、大きい方の傘を俺に貸すなんて。
……この人は女神かなにかなのか?
そうじゃなくても神社とか、とにかくそっち系の家系で人に尽くす心みたいなもんを教わってきた感じなのか?
情けは人の為ならず的なやつか?
と、タオルを受け取らずによくわからない思考にまで発展し血迷った俺に女の人は、
「ぼーっとしてないで早く拭きなよ。自分で拭かないならお姉さんが拭いちゃうよ」
なんて言ったかと思うと、タオルを俺の顔面に強く押し付けごしごしと水滴を力強く拭きとった。