お姉さん、泣いて
タオル越しとはいえ、無遠慮に俺の顔に触れる。
不可抗力とはいえ、無防備にも寄せられた柔らかな身体が俺の身体に触れる。
俺の角ばった太い指とは違う……繊細で白く艶めく指がタオルの隙間から顔をのぞかせ。
どっかで嗅いだことのあるような甘い香りが、さらりと揺れる髪から漂ってきたとき。
「じ、自分でできます!親切にどうもありがとうございました!今度返します!!」
「え……あ、ちょっと!!」
たまらなくなって、俺はその色香から逃げるようにその場から走り去った。
慌てて逃走したせいで傘を差す暇はなく、激しく雨に降られているわけだが。
「大人の女性って……怖っ」
大人の色気にぐらりと来てしまった俺の熱を冷ますにはちょうど良い。
頬に集まった熱も、冷たい雨に打たれて急速に冷えていく。
……それからもう一つ。
あの華奢な小指にはめられた指輪も、俺の生まれそうになっている淡い気持ちを消してくれるにはぴったりのもの。
以前姉が嬉しそうに自慢してきたからわかる。ピンキーリングってやつだ。