色づいて、濁り、落ちていく
「美冬、今日は事務所で仕事だから一緒に来て!」
「はい」

氷河は、美冬と片時も離れたくないと思っている。
なので、どこに行くにも連れていくのだ。
ただ抗争など明らかに危ない所や、クラブなど接待のような裏の話が飛び交う場所に行く時は、美冬は留守番をしている。

門前に高級車が止まり、金藤が開ける。
「美冬、乗って」
と先に乗るように促し、その後に氷河も乗り込む。
そして手を握る。
車がゆっくり走り出す。
事務所までの間、二人は何気ない話をする。
話すのはほとんど美冬の方で“◯◯のケーキ美味しいみたいですよ”や“雑誌でみた◯◯の服、氷河さんに似合いそう”などの話を、氷河は手を繋いでいない方の手で美冬の頭を撫でながら、優しく相槌をうち聞くのだ。

「お二人は恋人同士みたいですね」
金藤がバックミラー越しに言った。

「そうでしょ?やっぱり、美冬は僕のこと好きなんでしょ?恋人になってよ!」
「あ、それは…」
顔を赤くして俯いた美冬。

事務所に着き、先に下りた氷河が手を差し出す。
その手を握り美冬も下りて、そのまま手を引かれて事務所に入った。
「お疲れ様ですっ!」
事務所内でも、組員が頭をさげて挨拶をしてくる。
「おはようございます!」
「おはよ」
氷河がデスクチェアに座ると、美冬はその横に椅子を持ってきて座る。
氷河の仕事中、美冬は横で手伝いをしたり雑誌を見て時間を潰す。
“氷河の傍にいれば”何をしていてもいいと言われているからだ。

今日も氷河の隣に座り手伝いをしていると━━━
「若、大宮の兄貴が来てます」
「は?なんで、アポを取らずに来るの?
いつもそうだよね?大宮って。
もう…殺ってもいいかなぁ?」

美冬が氷河の恋人になることに踏ん切りがつかない理由。

それは━━━
< 16 / 52 >

この作品をシェア

pagetop