色づいて、濁り、落ちていく
「美冬も、純粋なんだな…!」
「え…」
「若の為に涙を流す。美冬も若を愛してるんだな」
「はい…」
仁士が美冬の目元を指でぬぐう。

「でも気をつけろよ。
若は愛し方を知らない。
あの方はずっと“感情”を殺して生きてきた。
“感情”ってさ、一番厄介だと思わない?」
「え?」
「俺はこの世の中で一番恐ろしいのは“人間の感情”だと思ってる。
昔オヤジが言ってたんだが、どんなに弱い小さな人間でも“怒”の感情だけで“悪魔”になれるって。
だがそれは逆に“愛情”が邪魔をして仕事ができなくなる。
人間は“感情”一つで“天使”にも“悪魔”にもなる。
だから、若には“感情”を持たせないって言ってた。
いざという時に、殺せなくなるからって」
「それは、そうですが…だからって…」
「……だから、怖いんだよなぁ」
「え?」
「恋人になってからっていうストッパーをかけてたから、若は美冬を純粋に大切にしているが、恋人同士になった今…そのストッパーは外れる。
若が殺してきた“愛情”は計り知れない。
美冬は若の感情を一心で受け止めることになる。
美冬。
若の“愛情”を甘くみない方がいい。
苦しくなったら言って?
俺とオヤジなら、助けられるかもしれない。
わからないけど…」

いつになく真剣な、仁士。
この仁士の真剣な表情が、これから起こる氷河の計り知れない“愛情”を予感させていた。

「はい。わかりました」
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