色づいて、濁り、落ちていく
「君が、氷河の世話係?」
既に話は伝わっていて、組長・鷹巣 銀蔵は真っ直ぐ美冬を見据えて言った。

「あ、はい。
内名 美冬と言います」

そこにいたのは、氷河にそっくりな穏やかな顔をした男性だった。
しかし穏やかなのは顔だけで、雰囲気は恐ろしく重い。
やはり最大組織の組長なだけはある。

「親父、今日から美冬を傍に置くから。いずれ恋人になる」
「氷河」
「何?」
「お前…本気か?」
「何が?」
「この子は普通のお嬢さんだぞ。
この世界に引き入れるのはやめた方がいい」
「どうして?」
「この残酷な世界に“好きな女”を引き入れるのかと聞いている」

「え?意味がわからない。
好きな女と一緒にいたいって思うのが、恋でしょ?
例えそこが地獄でも、一緒に落ちるのが恋人なんでしょ?」

「……お前にちゃんと“感情”を教えておくべきだったな」
「親父は、何を言ってるの?」
「いや。少し…お嬢さんと二人で話がしたい。
みんな、席を外せ」
銀蔵の言葉に、氷河達が廊下に出た。

「━━━すまないねぇ」
「え?」
「氷河には、感情がない。
俺がそうやって、ロボットのように育てたから。
まさか氷河が“自分から”恋をするとは思ってなかった。当然そうゆう感情もないと思っていたから。
“表の”君を巻き込んだ。
俺の責任だ。
今なら、君を逃がす事ができる。
氷河は俺の言うこと“だけ”は聞くから。
でもここで逃げないと、君は一生…氷河から逃げられない。
どうする?」
美冬は氷河の表情を思い出していた。

あの表情は、本当に純粋な恋心だ。
真っ直ぐ美冬を想っている表情。
そこに何の偽りも疑念もない。
その想いに答えたい。
少なくとも、美冬も氷河に好意をいだいていた。
恐ろしい世界だとはわかっている。

身寄りがない美冬。
それなら、氷河のために生きるのも“運命”かもしれない。

「いえ、氷河さんの傍にいます」
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