色づいて、濁り、落ちていく
「正直、氷河さんがいる世界がわかりません。
それに、氷河さんも人間です。
きっと私がここで逃げたら、氷河さんはもう二度と感情を持てなくなりますよね?」
「恐らくな…」
「だったら傍にいて、氷河さんの純粋な真っ白な想いを大切にしてもらいたいです」

「そうか…君は、肝が据わってるんだなぁ。
ある意味、氷河が惚れるだけはあるかもな」
「え?」
「アイツは純粋で、嘘をつかない。
信じられないかもしれないが、嘘をついたことがないんだ。
一度も!
いつも真っ直ぐに、相手に向かっていく。
俺の命令を忠実に守り、命乞いをする相手の言葉も耳に入らない。
本当にロボットその物だ。
だから冷酷で、非情な奴だ。
それでもいいんだな?
君が見てきた世界にはない、残酷な世界だぞ」
「はい」
「わかった。もう、行きな」
「はい。失礼しました」
美冬が部屋を出ると、氷河が待っていた。

「美冬、大丈夫だった?」
「はい」
「僕達の部屋に行こう」
「はい」
自然と手を握り、部屋に向かった二人だった。

「━━━広いお部屋ですね」
「そう?普通だよね」
「え?でも、私のアパートはこの部屋の半分もないですよ」
「は?そんな家あるの?」
「はい。ありますよ」
「ふーん」
そう言いながらジャケット脱ぐ氷河を、さりげなく手伝う美冬。

「あ、ありがと」
「いえ。その為の私ですよね!
氷河さんのお世話係ですから!
えーと、家の中では何を着てますか?」
「ガウン」
「わかりました」
「そこのクローゼットにある黒いヤツ。
スーツはその横のクローゼット。
今脱いだのは、クリーニングに出すからそこのカゴに入れて。一度着た服は、全てそこに入れといて」
「はい。わかりました。
最初はわからないことばかりなので、ご迷惑をかけますがよろしくお願いします!氷河さん」

ニコッと微笑んで、美冬は頭を下げた。
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