色づいて、濁り、落ちていく
情が溢れだす
それから先に氷河が入浴し、その後美冬が入った。

「凄っ!露天風呂?
高級旅館みたい…」
氷河の部屋に備え付けてある風呂場。
屋根はついているが、屋外にある大きな浴槽。
美冬は圧倒されていた。

風呂から出て、ガウンを着て氷河のいる部屋に戻った。
「お風呂、入ってきました」

氷河はソファに座って足を組み、書類を見ていた。
そして金藤が襖前の畳に正座をして、待機していた。
美冬はどうしていいかわからず、ソファの下のカーペットに正座して座った。
そして氷河を見上げた。
真剣に書類を確認していて、きっと美冬が風呂から帰ってきたことも気づいていないんだろう。
氷河は、一つのことに真っ直ぐ取り組む人間のようで、美冬もまた氷河の真っ直ぐな性格に心が奪われていた。
部屋の中はシーンと静まり返っていて、氷河の書類をめくる音だけが響いていた。
でも全く居心地が悪くなく、とても穏やかだった。
美冬は氷河をジッと見つめていた。

そしてその二人の姿を金藤も見ていた。
いつも氷河が書類を見ているこの時間は、どこかピリピリしている。
なのに今は、なぜか穏やかだった。
氷河の雰囲気が柔らかいのだ。

「金藤、これでいいよ」
そう言って、パサッと書類をテーブルの上に置いた。
「はい。ではこれで進めます。失礼致しました」
金藤がソファに近づき、書類を取り部屋を出た。

「あれ?美冬、どうしてそんなとこに座ってるの?」
「え?邪魔しないように待ってました」
「そうじゃない。美冬は僕の恋人になる人なのに、そんなとこに座る必要ないってことだよ。
ここにおいでよ」
そう言って、隣をポンポンと叩いた。

「え?でも…金藤さんもそこの入口に座ってましたよ」
「は?」
「え?」
「金藤と美冬は、レベルが違うよ」
「金藤は部下、美冬は僕の想い人。
全然違う。美冬は特別なんだよ。だから、ここ!」
「はい」
美冬は少し遠慮がちにちょこんと隣に腰かけた。
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