平凡な私の獣騎士団もふもふライフ4
魔女が、遠い過去を思い出すよなうな顔で重々しく口を開く。
「あの子が幸運の娘であると知った王家が、差し出せと要求した。神子として予知能力も持っていたあの子は、争いからもっとも離れる未来を選んで……『たとえ不慮の事故が起こったとしても、決して関わってはいけない』と、領主と婚約者たちに約束させて出立した。それは歴史にも刻まれている出来事だ」
――ボークノーツ歴百二十年、エンビィッツ一国四領主戦争。
それは国と四領地を巻き込んだ大戦争だ。
きっかけは、王家の〝護送車〟が、反王族同盟のアバン領主らによって襲撃され、不運にも脅し用の落石が誤発し、全員死亡したことだ。
だが、事実は違う。馬車にいたたった一人の少女を奪おうとして、騒ぎの中振るった剣が仕掛けの縄を切った。
「馬車の中にいたアティーシャは、死んだ。『せっかくの幸運の娘を〝壊しおって〟』と事故の責任のなすりつけあいが、戦争になった」
王族とアバン領主派、北ラッドゥオ領と、新領地バベスク二世の衝突で、一ヵ月の間に百五十万人の兵と民が死ぬことになった。
のちに戦争は第一次、第二次と別の大戦争へ発展していく。
しかし激化する戦いの中、グレインベルトは、不思議と忘れ去られたかのように戦禍を受けることもなかった。