吸血鬼くんと、キスより甘い溺愛契約〜無気力なイケメン同級生に、とろけるほど愛されています〜
とりあえず、早いところ寮に入る手続きをして荷物の整理もしなきゃ。
学園の敷地は、ほんとに広い。
校舎の数が多いのはもちろん、生徒が生活する寮もあるし、とにかく建物の数が多い。
どれも似たような建物だから、区別がつかないよ。
「どうやって寮まで行ったらいいの……!」
すでに迷子状態……。
大きな噴水があるところを通り抜けて、花壇がある中庭のようなところに来た。
もはや学園というより、お金持ちの人が住んでいそうな豪邸って感じ。
あと、いたるところに真っ赤なバラが咲いている。
どれもしっかり手入れされていて綺麗だし、バラをこんなにたくさん近くで見るのはあまりないかも。
何気なくバラに手を伸ばすと。
「うっ……いたっ」
茎の部分にあるトゲに気づかなかった。
よく聞くのは、綺麗な花にはトゲがあるってこと。
バラは、まさにその言葉どおり。
指先に軽くトゲが触れたせいで、わずかに血がにじむ。
せっかく新しい生活がスタートするのに、いきなりケガをするなんてついてないなぁ……。
ショボンと落ち込んでいると。
急にぶわっと風が吹いて、バラの花びらが舞って。
同時に、わたし以外誰もいなかったはずなのに背後に誰かの気配を感じて――。
「……甘い匂いする」
低くて落ち着いた声が聞こえて、後ろを振り返った。