LOVESS
「いや。やはり弁護士の先生が出て来てくれる方が、スムーズでしょ。
そもそも、俺自身そのお客さんと、直接連絡取りたくないんで。
ナツキの名前で、二度と呼ばれたくないから」
「分かりました。
当時、海宝さんはそのお客さんからしつように接触されて、精神的苦痛を味わい、心療内科に通院されていた。
今回、再びそのお客さんの名前を目にし、精神的に参っている。
仕事にも支障をきたし出し…。
その慰謝料と損害賠償請求辺りの逆訴訟って所でどうでしょう?
相手側に、訴訟を取り下げてくれるのならば、こちらも訴えない、と」
「うん。その辺りはお任せします。
けど、もし、それで向こうが引き下がらなければ?」
「その時は、海宝さん自ら、その女性の手でも握って、優しく諭されては?」
そう言うと、海宝さんは、そっか、と笑っている。
多分、こちらが強気で訴えると言えば、向こうは引き下がるだろう。
いや、引き下がらせる。
「それにしても、こんな何年も経ってから…。
正直、参ってんだけど」
困ったような表情を浮かべているけど、
その顔から余裕が感じ取れる。
「数年経ってから、ふと、違うきっかけでそれを思い出して、って、たまに有りますよ。
今回のその海宝さんのお客さんも、きっと、その事を思い出す何かがあったんでしょうね」
「どうせ、またホストに騙されたとかじゃない?」
一瞬、その顔に冷たい笑みが浮かぶ。
それは、ホストであるナツキの。