オスの家政夫、拾いました。2.掃除のヤンキー編
「ハニー、朝から君の素敵な顔が見られて嬉しいよ。朝からなんの御用かな?」
Cinderella社のオフィスに一人でコーヒーを飲んでいたMr.Pinkが彩響きを迎えてくれる。改めて見ても、この社長も変わったところばかり…ではあるが、今はこの変な洋服センスの持ち主のことを探索している場合ではない。ソファーに座った彩響は軽く挨拶をして、早速本題を切り出した。
「Mr.Pink。恐縮ですが、家政夫を変更したいです」
「おや、どうしたのかな?彼がなにか無礼なことでも?」
「まあ…おそらくお互い合わないタイプかと思います。別の人に変えてください」
河原塚さんとどんなやり取りをしたのか、ここで詳しく話をするのも正直面倒だと思った。なにより、早くこの件を解決して家で寝たい。どうせなら、家政夫さんが綺麗に整えてくれたベッドの上で…。
「ハニー、彼がなにか気に障るようなことをしたなら代わりに謝るよ」
「いえ、そんなことではありません。それより別のー」
「しかし今すぐ家政夫を変更することはできない」
「どうしてですか?」
「契約書を読み直してみるかい?」
スマホを出して、メールを読み直す。細かい項目の中に、太い文字で「家政夫の変更に関して」という項目が確かにあった。そして、その内容は…
「最低30日間は変更不可、ですか…」
「そう、残念ながら、これが我々のルールなんでね。これは顧客と家政夫がお互い慣れるための最低限の時間だと思って作った規則でね、その後でどうしても無理というなら変更するようにしている」
まさか、こんな決まりがあったとは。30日なんて長過ぎる。あんなやつと一ヶ月も一緒にいなきゃいけないなんて…!混乱する彩響の顔に気づいたMr.Pinkが再び口を開ける。
「すまない、ハニー。会社を経営するにはなんだかんだ言っていろんな規則が必要なのだ。もちろん、どうしても嫌なら彼をすぐやめさせる。しかし契約上返金は一切無い。それでも構わないなら、そうしてくれ」
1ヶ月の金額を無駄にするか、それとも1ヶ月を我慢するかー。彩響は頭を抱えて悩み続けた。お金は正直勿体無い。そしてボロ屋敷の家に帰るのも遠慮したい。結局彼女が選ぶ道は一つだけだった。
「分かりました、これから1ヶ月我慢します」
「いいチョイスだよ、ハニー。河原塚くんはとても優秀でいい青年だ。君もきっと好きになるし、ハニーの役に立つよ」
(どこが役に立つの?もうこんなに嫌なんですけど??)
もう何もかもが嫌になり、彩響は軽い挨拶だけしてそのままオフィスを出た。てくてくと駅に向かい、プラットフォームに立っていると、朝日が更に眩しく感じた。ベンチに座り、彩響は目を閉じたままじっくりと考えた。
そうだ、1ヶ月なんてすぐ終わる。だからそれまでの我慢だ。
見てみなさい、一ヶ月がたったその瞬間…
「ーあいつ、絶対首にしてやる!!」