音のないこの世界で
仕事で忙しい母は帰りがいつも遅くなるので必然的に1人になることが増えた。どうすればいいか考えた末、僕の宝物を売って、仕事の量を減らしてくれればいいと思った。
母に音楽プレーヤーや大好きなゲームを「もういらないから売ってくれ」と頼んだ。母からは「本当にいらないの?音楽聞くの好きだったじゃない」と言われたが、その音楽プレーヤーは父が僕には買ってくれたものだから余計に売りたかった。
自分から捨てた癖に、今になって音楽を聞くことを楽しんでいる。随分と馬鹿げた話だ。
その日から『父』と『母に話してしまった自分』のことを恨んだ。どんなに恨んでも何も帰ってくるものは無いと気づいたのは中学に入ってからだった。
中学は近くのところに通うとまた変な噂されると思い。それが嫌だったので、入りたい部活がそこの中学にないからという嘘の理由を母に話すと、少しだけ遠い中学校に通わせてくれた。そこで出会ったのが智だった。そして、現在に至る。
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