冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
コンコンと社長室のドアをノックをすると「入れ」という声が聞こえた。こうやって何度も社長室に出向いた。
最初匠馬を見た時、なんて男っぽい人なんだろうと思った。その中に涼し気な爽やかさがあり、少しぶっきらぶうだが優しさも見えた。
完璧なのにおごらず、常に前を向いていて、その振る舞いに多くの人がついて行きたいと思わされた。澪もその一人だ。
「社長。今日まで大変お世話になりました」
中に入り深々と頭を下げれば、匠馬がくるりと椅子を回しこちらを向いた。まだお腹は出ていないが、無意識に隠した。
「本当に辞めるんだな」
「はい。どうぞお体にお気をつけて」
「神谷もな」
匠馬の声に小さく頷く。
彼に、澪と名前を呼ばれることはもうないだろう。そしてこの精悍な表情を見ることも。澪は見納めとばかりに匠馬を凝視した。
「実家に帰って何をするつもりなんだ」
「しばらくはのんびりします。その後のことはまだ……」
「そうか」
そう言うと匠馬は再び椅子を回し、背を向けてしまった。そして憮然と外を眺めている。