冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
◇◇◇
会社を辞め実家に戻ってきて二週間。
澪は光江との久しぶりの生活に、やっと慣れてきた。大学入学と同時に東京へ行ってしまったから、こうやって食卓を囲むのは、高校以来だ。
「ん、美味しい」
「そう? よかった。ほらたくさん食べなさいね」
「やっぱりお母さんの煮物は美味しいね」
つわりはすっかり収まり、食欲が戻ってきた。お陰で少しふっくらしてきた。すでに妊娠5か月に入っており、次の検診では性別がわかるかもしれないと言われた。
「それはそうと……お母さん会社でまた何か言われてない?」
「んー? 気にしなくていいのよ」
「でも……」
「澪は何も心配しなくていいから」
目を細め優しい表情で澪を宥める。澪の実家は田舎で、人口も娯楽も少ない町だ。コンビニも9時には閉まるし、夜は外灯も少ないため真っ暗。
そんな田舎町で、澪が戻ってきたことによって、田舎特有の、噂はあっという間に広がるという現象が今起こっている。澪はそのことをずっと気にしていた。
「だって。東京に行った娘が妊娠して帰ってきたなんてやっぱりさ……」
体裁が悪いに決まっている。
「お母さんは気にしてないから」
どこまでも寛容で穏やかな光江に、澪は嬉しい反面申し訳ない気持ちになる。やっぱり、戻ってきたのは失敗だったかもしれないとも思っていた。