冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~


「ご主人はどうされますか?」
「ご主人?」
「立ち会われるなら、お呼びしますが」

匠馬の顔が浮かぶ。澪はあれこれ考えるより先に、頷いていた。今の澪に、意地を張る気力はなかった。ただ、匠馬に傍にいてほしいと切に思ったのだ。

数人のスタッフが澪の周りを駆けまわり、分娩室が慌ただしくなった。澪はその間も、一人で歯を食いしばり痛みに耐えていた。

「澪」

そこに、匠馬が入ってきた。

「匠馬さん」

彼の顔を見た瞬間心からホッとした。一人じゃない。そう思うと、泣きたくなった。

「頑張れ、澪」
「ハァ……うっ」

苦しくて痛くて身がちぎれそうだった。けれど匠馬が傍にいる安心感で、澪は弱音を吐かず頑張れた。

「神谷さん、もうすぐですよー」

分娩台にのってわずか10分。おぎゃーという大きな産声が上がった。

「おめでとうございます。可愛い女の子ですよ」
「はぁ、はぁ……よかったぁ……」

思わず安堵の声が出る。匠馬が「澪、ありがとう」と、顔をくしゃくしゃにして喜んでいるのが見えた。それを見た瞬間、痛みも疲れも、吹き飛んでしまった。

「澪、今まで辛かったよな。一人にして悪かった」

匠馬はそっと澪の額にキスをする。

「たくさん償わせてほしい」



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