冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~


「何を言う。いま舞わずしていつ舞うというんだ」

匠馬はやれやれと言った表情で、天井を仰いでいる。

頑固な幸之助は一度言い出したらきかない。そそくさと座敷の方にひっこむと、準備をしているようだった。

幸之助の趣味は日本舞踊で、会食などのときも、こうやってみんなに披露した。澪はそんな幸之助を、手拍子で盛り上げた。

天井から吊られたような綺麗な姿勢で手拍子をする姿は、そこらへんにいる舞子より美しいと評判だった。澪は幸之助にとっても自慢の秘書だったのだ。

「それでは、匠馬と澪さんの結婚を祝して」

上機嫌で現れた幸之助に澪が手拍子を送る。その傍らでは、喜和子が美雨を一生懸命あやしていた。

「変な家族で悪いな。二人ともよほど嬉しいらしい。許してやってくれ」
「いえ、とんでもないです。とっても楽しいです」

匠馬が申し訳なさそうに謝っていたが、澪の視線の先には、幸せな未来しか映っていなかった。


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