冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
「顔を売っておいて損はないだろう」
「そうですね」
色んな業種の人たちが集まり、意見交換をする。澪にとってもきっと勉強になるに違いないと感じていた。
「もう仕事が片付いたのなら上がっていいぞ」
「はい。それではこれで退勤させていただきます。失礼します」
一礼して社長室をあとにする。
秘書室に戻り帰り支度をしていると、室長の赤羽一花(あかばねいちか)が声をかけてきた。
「神谷さん、社長とはどう? うまくやってる?」
「あ、はい」
一花はここの室長で、今年37歳。既婚者で2歳の子供がいる。産後も変わらずスレンダーな体型で、肩まである黒髪は、艶々としている。触ったら絹のような心地がしそうだと澪は常々思っていた。
「そう、さすがね。社長ちょっととっつきにくいっていうか、冷徹そうだから心配してたのよ」
「そんなことないですよ。仕事に対しても熱心ですし、優しい方です。すごくお慕いしてます」
そういえば、一花はふふっと上品な笑みを浮かべた。
「それならよかった。前社長のお墨付き秘書は言うことが違うはね。もう帰るんでしょ? お疲れ」
「あ、はい。ではお先に失礼します」
一花は澪が入社したときから、気にかけてくれている。それに仕事もできて、親しみやすい。澪は自分もいつか一花みたいになりたいと、密かに憧れを抱いていた。
「お疲れ様でした」
そう声をかけると秘書室をあとにする。
外は今にも雨が降りそうで、雨雲が立ち込めている。その雲に追われるようにして澪は家路を急いだ。