冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
会社を出て少し歩いたところで、ぽつぽつと雨が降りだした。澪は手をかざし空を眺める。天気予報を見てきたのに、肝心の傘を忘れてしまった。それもこれも、ストッキングが見つからなかったせいだ。
「急ごう」
夜にかけて雪になるかもしれないと言っていた。明日が休みでよかった。家でDVDでも見ながらのんびりしよう。贅沢は禁物だ。
そんなことを考えながら小走りで走っていると、ふと聞き覚えのある声が届いた。
「まだ時間あるんだし、飯行こうよ」
「じゃあ私フレンチがいいなぁ」
「いいね。奢るよ。最近ちょっと臨時収入があってさ」
その声は、前から歩いてくる男女からだとわかる。一つの傘に入り、楽し気におしゃべりをしている。
澪はあることに気が付き、思わず足を止めた。
「臨時収入? なにしたの」
「まぁまぁ、そこはいいからさ。パーッと遊ぼうぜ」
ハイテンションでそう話す男性を見て、澪はハッとした。林田誠だったのだ。派手目の女性と腕を組み、笑顔で歩いてくるではないか。
すると通り過ぎる寸前、誠は澪に気がついたのか「まずい」といわんばかりの顔をした。澪は思い切って声をかけた。