冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
妻はその隣で優しく微笑んでいて、和風美人で薄紫色の着物がよく似合っている。どちらとも50代と聞いている。
「高峰さん、お久しぶりです」
すぐにビジネスの顔になった匠馬が、綺麗な笑みを浮かべ挨拶する。
「社長就任おめでとう」
「ありがとうございます。若輩者ものですが、今後ともどうぞよろしくお願いします」
「しかし、急だったね、なんかあった?」
探るような目で匠馬を下から覗き込む。その顔はにやついているというか、ワクワクしているように見えた。だが匠馬は動じることなく「いえ」とかぶりをふった。
「僕がアメリカから帰国したタイミングで、父が会長になるというのは、以前から決まっておりましたので」
「そうだったの」
なーんだと言わんばかりに高峰は笑っている。なにかでてくるのを期待していたのだろう。幸之助の病状のことは公には伏せてある。こんなふうに探られたことも何度もあるが、どれも今みたいに匠馬が上手にかわしてきた。
「あれ、そちら新しい秘書さん?」