冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~


「今日は息子も紹介しようと思ってたんだけどな。さっきから見当たらなくてね」
「そうでしたか」
「自由すぎて本当に困ったものだよ」

その顔はどこか辟易していた。ちょっと問題のある子息なのかもしれない。そういう話はよく聞くし、ここで愚痴をこぼす親もいる。

幸之助は匠馬についてはあまり話さなかったが、信頼しているような雰囲気はあった。でなければいくら息子とはいえ、会社を任せたりしないだろう。

甥や姪など、後継者に名乗りを上げそうなメンツは何人かいたようだが、反対する者はいなかったと聞いている。

ただ一人を除いては――。

「まぁ根はいい奴なんで、本郷さん、今後ともよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

軽い会釈をしてその場を後にする。ふと、もらった名刺に目を落とすと、『和フーズ代表取締役社長、林田武』と書いてあった。

その名前を見て、一瞬思い出したくないことが蘇ってしまった。

(名字が同じ……でもまさかね)



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