冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
そんな偶然あるはずないと、かぶりをふる。だいたい誠はお金に困っていた。社長の息子なら、そんなことあるまい。
気を取り直し匠馬の後を追っていると、匠馬のスーツの裾に白い粉のようなものがついているのに気がついた。
「社長」
「どうした」
「お召し物が汚れてます。ちょっとよろしいですか」
こそっと告げると、匠馬を会場の隅へと促した。
「失礼します」
そして澪は匠馬のスーツを手に取ると、持っていたハンカチで汚れを叩くように取り除いた。匠馬はそのてきぱきした動作に目を見張っている。
「全然気づかなかった」
「粉砂糖のようです」
これだけの人が集まって飲み食いしているのだ。すれ違ったときに、ついたのかもしれない。
「悪いな」
「いえ」
必死にそれを取り除く澪を、匠馬はじっと見つめている。
こんな至近距離でまじまじと見られるとやりずらい。勝手に心臓がドキドキしてしまう。それに今日の匠馬は、別格にかっこいい。洗練されたスーツに、髪もいつもと違ってオールバックにしている。今朝見た時、思わず息を呑んだくらいだ。