冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
「お察しの通りです。彼、林田さんとは、アプリで知り合って、それで……」
「復縁でも迫られたか」
「いえ。そもそも付き合っていませんでしたので」
そう言えば匠馬は一瞬、意外そうな顔をしたが、すぐ納得したようだった。澪を初めて抱いた男は匠馬だ。あとは言わずもがな。
「ただお金を貸していました。それを返すからと言われて、それでのこのこと」
「金? いくらだ」
「100万です」
険しかった顔をさらに険しくし、顎をなぞっている。きっと呆れたのだろう。
「でも結局また騙されました。悔しいな」
匠馬にまで迷惑をかけて、情けなくて顔を上げられない。尽くすと決めたのに、一番近くにいる自分が、迷惑をかけてしまったことが一番つらかった。
「本当にすみません。社長。もし和フーズとの取引に影響がでたりしたら……」
「そんなのどうだっていい。大事な秘書を傷つけられているのに、黙っていられるわけないだろ。なんなら、こっちから切る」
「そんな……私も悪かったんです」
二度も騙されるようなへまをして、愚かとしかいいようがない。
それにあと一歩、匠馬が来るのが遅かったら、今頃誠に組み敷かれていたかもしれない。想像するだけで吐き気がした。匠馬が触れたところを、なぞられたくないと思った。