冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
「それより何もされてないのか?」
「はい、大丈夫です。社長がきてくれたので」
「そうか。よかった。お前がいつの間にかいなくなってたから焦った。間に合ってよかった」
心底ホッとしたような声を上げ、澪をぎゅっと抱きすくめる。人が行き来する場所だというのに、匠馬は眼中にも入っていないよう。
「あ、あの……」
硬直しながら匠馬の腕の中で目を瞬かせる。
「あ、悪い。つい。とりあえず、ここを出よう」
「は、はい」
腰に手を添えられ、その場を後にする。よほど悔しかったのか、胃のあたりがムカムカする。それに心なしか眩暈も。
「大丈夫か。顔が真っ青だ」
「……ちょっと気分が悪くなっただけです」
「今日は帰ってゆっくり寝てろ」
心配そうに匠馬が言う。澪はこくんと黙って頷いた。
きっと中はまだいろんな話が繰り広げられているに違いない。本当は戻って一緒にいるべきなのだろうが、そんな気力は残っていなかった。
秘書失格だ……
澪はふさぎ込むようにして、匠馬が呼んでくれたタクシーで自宅へと帰っていった。