冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
「俺はすごく不快な気持ちになった! だから返金しろと言ってる!」
「あの、お客さま。どういったところがお気に召さなかったのでしょう」
「俺を疑ってるのか!? 感じ悪いなどいつもこいつも」
その声はフロア中に響き渡り、他の客からも注目を浴びていた。
フロントで対応している女性スタッフは、今にも泣きそうで、しかもこういう時に限って、他のスタッフがいない。支配人もどこかへ行っているようだった。
澪は踵を返し、ヒートアップする客の元に向かった。
「よろしければわたくしがお話を伺いますが」
丁重に言えば、男が勢いよく澪を見た。
「風呂も汚いし部屋に虫がいたんだよ。だから返金しろと言ってるのにこいつらがしぶりやがる」
「大変申し訳ございません。すぐにご用意いたします」
深々と頭を下げると、澪はフロントへと入った。
泣き出してしまいそうな女性スタッフ、桜井まどかに「返金を」と指示すると、まどかは返金処理にとりかかった。
「お客さま、お待たせしました。大変申し訳ございませんでした」
「ったく、最初からしろよ」
捨て台詞を吐き、男性客は現金をひったくるとホテルを出て行った。その一幕に、周りにいた客が顔をひきつらせていた。