冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
距離のあるような言い方で言葉を紡ぐ。目には、葛藤や迷いは滲んでいない。
「申し訳ありません」
「あの時、俺は澪から愛情を感じた気がした。それは気のせいだったのか」
哀愁を帯びた口調に、胸が痛んだ。だけど澪は決して揺るがないと誓ってきていた。例えどんな甘い言葉を囁かれようが、絆されないと。
「社長が、社長でいられなくなるかもしれないとお聞きしました」
意を決して言えば、匠馬は色を失くしたように愕然としていた。
澪が知っていることに驚いているようだった。つまり、その噂は本当なのだろう。匠馬は一瞬空虚を睨むと、覚悟を決めたように話し始めた。
「澪の知っている通りだ。黙ってて悪かった。俺の周りには、怨み言を並べるやつが何人もいる。引きずり降ろしてやろうと目論んでいる奴もな。だが俺は何があっても社長の座は譲らない。親父が苦労して立て直した会社だ。簡単に手放すわけにはいかない」
意志の強さを孕んだ瞳が揺れている。彼は一度決めたらやり遂げる実行力がある。
だけど束になってかかってきたら? 足元をすくわれたら……。