冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
席を立った澪を匠馬が切羽詰まった様子で止める。
「俺はお前を愛している。例えお前が、俺の背景しか見ていなかったとしてもだ」
「……っ」
背を向け、憮然と床を見つめる。これ以上耳に入れてはいけない。気持ちが揺らいでしまいそうだから。
「お前の特別になれないのなら、せめてこれまで通り秘書として俺の隣にいてほしい」
「無理です。会社も辞めますので」
「なぜそうなる」
「これ以上は個人情報ですので」
澪はきっぱりと言うと、足早に店を後にした。そしてビルの隙間に飛び込んだ。
匠馬の気配が消えると、堪えていた涙が一気に溢れた。そしてその場で声を押し殺して泣いた。
(これでよかったんだ、これで。涙を見られなくてよかった)
「うっ……ぅ」
匠馬は納得してくれただろうか。いや、うまく演技できていたんだ、きっと大丈夫だろう。なにせアンドロイド秘書なのだから。
澪は初めて、アンドロイド秘書と呼ばれていた自分に誇りを持った。皮肉なものだ。
「好きでした。匠馬さん……だから、さよなら」