【短編】代筆の恋 –お嬢様のふりをして婚約者に手紙を書いています–
恋をした。だけど、叶わぬ恋だった。
『親愛なるエリオット様。
寒い日が続きますが、リンデン地方ではいかがお過ごしでしょうか?
我が伯爵領は冷え込みが厳しいのですが、こんな日は暖炉の前に座って編み物をして過ごすことにしています。去年は失敗ばかりでしたけれど、ようやくコツを掴んできました。
いつか、エリオット様のために、何かを編んで差し上げられたらいいのですけれど――』
他愛のない世間話をつらつらと書いた私は、最後に『メアリーより、愛を込めて』と署名してペンを置いた。
私の名前はケイト。
メアリーというのは私が仕えているお嬢様、メアリー・ウィンセンブルク伯爵令嬢のことだ。彼女の婚約者・エリオット様はもう何年も遠く離れたリンデン地方に留学していらっしゃる。
離ればなれで暮らす婚約者同士の、微笑ましい文通。
いつの日か結ばれるときのための心温まるやり取りだ。
私はメアリー様に成り代わり、この二年もの間、恋心を「偽装」している。
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