【完】華道家の若旦那は、ウブな彼女を離したくない。



「また裏切られるかもしれない、そう思ったら怖くて……それなら恋をするのはやめようと思ったんです。だから貴敬さんのことも信じられなくて。それに貴敬さんは、華道の次期家元で、あんな素敵なレストランを知っていて、違う世界の人だと思って」


 彼は相槌だけ打って静かに聞いてくれてそれが嬉しくて、口が動く。


「結婚してから、貴敬さんはいつも誠実で優しくて……こんなにいい人を信じられない自分に嫌悪感を感じていました。だから、かえでさんに子どものこと言われてもしかしたら許嫁さんと何かあって結婚したくないから後継者を産むために貴敬さんは私と結婚したんじゃないかって思ってしまう自分がいました。ごめんなさい」

「……花陽ちゃん。話してくれて、ありがとう。俺は、花陽ちゃんを後継者を産むために奥さんにしたわけじゃない。それははっきり言っておくね」

「は、い」

「おばあ様がなんて言ったのかわからないけど、許嫁がいたのは確かだ。だが、だいぶ前に俺は振られてる。好きな人がいるからってね。俺は自分で言うのは恥ずかしいが、一途な方だと思ってる。だから裏切ることは絶対しない。君だけを愛してる。体を重ねるのは、子作り目的ではなくてただ触れ合いたいと思ってるから」


 貴敬さんは私の手を取ると、ぎゅっと優しく握った。

< 58 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop