【完】華道家の若旦那は、ウブな彼女を離したくない。
◇小さな宝物
それから月日は流れて……私と貴敬さんが結婚して一年経った。
「――花陽さん、体調は大丈夫かしら」
「かえでさん、わざわざありがとうございます」
私は少し膨らみ始めたお腹を見ながら来てくださったかえでさんにお礼を言った。
「そんなこといいのよ。こんな大事な時期に、貴敬ったら海外に公演だなんて」
「海外公演は結婚前から決まっていたらしいですし、仕方ないですよ」
「まぁ、そうよね。でも、帰ってきたらあなたのそばになるべくいてもらうために出張はやめてもらうわね」
「ふふ、お願いします。でも、毎日時間が空いたらテレビ電話してるんですよ」
かえでさんとそんな話をしながら私は少し前のことを思い出す。
体調不良が続いた私を貴敬さんは心配して大学病院に駆け込んだ。そこで妊娠しているのがわかった。彼に言えば、一瞬固まってしまったけど数秒で理解したのかとても嬉しそうな表情を見せてくれて幸せな気持ちになったのを今でも良く覚えている。
「そうなのね、それにしてもあの子は……気が早くないかしら」
「ですよね。いつの間にか、増えちゃって」
かえでさんの目線の先には、赤ちゃんのおもちゃや男の子でも女の子でも着れるようなベビー服に数種類のベビーベッド三つ、置いてありおもちゃは日に日に増える一方。毎日、苦笑いの日々だ。