陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
 やっぱりカッコイイなぁ……。

 運動後の陽呂くんの素顔が初めてだったこともあって、ついつい見入ってしまった。


 そうしていると眼鏡と賞状を持っていない方の手が伸びてきて、頬に触れる。

 親指が零れた涙の跡をぬぐうようにこすり、その後で顔がグッと近付けられた。


「ひ、陽呂くん⁉」

 近すぎて見惚れるどころじゃなくなる。

 周囲に悲鳴のような声が上がった。


「……やっぱりこれくらい近くないとちゃんと見えない」

 陽呂くんは周りを気にしていないのか、あたしにだけ聞こえる声量で甘くとろけるように囁いた。


「で、でもこんな近いと……その……」

「キスされそうに見える?」

 あたしが思ったことを言葉にしてくれる陽呂くん。


「う、うん。そうだよ、だから……」

 分かっているなら離れてくれると思った。

 なのに――。


「じゃあ、本当にしようか?」

「え――?」

 聞き返す前に、あたしの唇は塞がれていた。


 触れるだけのキスは呆然とするあたしを置いてすぐに離れていく。


 でも、触れたのは間違いなくて。

 こんな大勢の前でキスされたのは確かな事実で……。


 あたしは言葉を失うと同時に顔に熱が集中した。
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